第9話  古書店

文字数 931文字

殆ど客なんか無くって時々古本の業者みたいな人が来て

「新入荷の古本だよ。」

って下手な冗談を言っては時間を潰していく。

サキの仕事はそういう人にお茶を出しては話を聞いている事ぐらい。

これでバイト料を払ってもらうのも悪いような気がする。

店のオーナーは阿部 亨(とおる)といってサキの母の弟だから叔父にあたる。

古本屋の親父っていうには若くてお兄さんみたいな感じがする。

「サキちゃん、ここらへんちょっと寒いぐらいクーラーが効いてるなあ。前からこんなだったっけ。」

久しぶりに店に顔を出した亨は半袖で露出している腕をさすりながら言う。

「そうかなあ。いつもいるからよくわからないけれど。」

サキには特別寒いようには感じない。

ずっと店にいたので慣れてしまったのかもしれない。

「うん、ちょっと効きすぎてる。」

「あれ、こんな物あったっけ。」

亨はウィンドウに飾られた古びた絵巻き物を指さす。

「今朝お店を開けたら床に落ちてたの。かっこいいから飾ったの。他に見栄えするものもないし。」

「あ、そう。棚から落ちたのかな。サキちゃん、見栄えはしないけれど結構値打ちものの本だってあるんだぞ。」

亨は笑いながら言う。

それでもウィンドウの絵巻き物には首をかしげている。

丁度、古本業者の人が来て、亨と話をはじめる。

「最近不思議な事件が続いているねえ。」

「なんの外傷も無くて死んでいるんだって。」

「なんか、命だけ吸われちゃったみたいにだろう。」

業者の人は興味がつきないというように話す。

「鬼か何かにかな?」

「鬼か?元々人の心にはそんなものが住んでるようでもあるしね。」

「人間が一番恐いんだって、よく言われるよ。」

「欲に絡んだら関係のない人にまでも毒をのませて殺しちゃう様な事件があったりするんだから。」

「まあ、幽霊も元は人間だしね。」

亨は「ふん、ふん。」とあいづちをうっている。

ひとしきり話をすると気が済んだのか、ぐいっとお茶を飲み干して業者の人は

「じゃ、また。」

といって店を出ていく。

店を出ながら「この辺、やたらとクーラーが効いてるね。」と言う。

この辺は地下街の中でも最も古くからある通りで去年などクーラーが効かなくて暑かったぐらいだった。

改装プランからは少し外れたものの空調は若干よくなったのかもしれない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み