第18話  地下街

文字数 1,334文字

第18話 地下街

「鳥居・・・地下街・・・闇・・・・黒い・・・なんだろう?何か意味があるんだろうか?」

学校の帰りにサキがアルバイトしている叔父の店に行く。

ちょうど、夕食時や帰宅時間に当たるせいなのか人通りがひどく多い。

密閉された地下街という空間の中でこれだけの人々が行き交っていれば、さぞかしほこりも上がって汚れた空気になっているだろうと思われるのだが、視界が濁っている様子はない。

全く暗さを感じさせない、影を表現することのない照明が妙に白々しい。

あきらは何か違和感を感じる。

いつもなら、地下街にはたくさんの地縛霊や浮遊する霊がいるのだけれど、今日は全く見かけない。

まるで、霊を感じる力を失ったかのような喪失感がある。

どこにでも霊の存在があるというのが普通の状態なのでこのように何もないというのはむしろ非常に異常な事態だ。

日頃そういう物たちとの相克に力の一部を使っているあきらとしては拍子抜けしたような感じなのだ。

ところが叔父の店がある地下街の一角にさしかかると急に背筋を悪寒の様な物が走り体毛が逆立つ。

何も無いのだけれど大きな力を感じる。

普通の人なら妙な圧迫感とか、疲労感とか息苦しさ、肌寒さとして感じるかもしれない。


叔父の阿部 亨(あべ とおる)は

「どうせ客なんか来ないからそこに座ってよ。」

という。

古書といってもコミックや文庫本を並べているのではなく、骨董屋に近い。

古い文献や絵巻物などといった物を陳列販売している。

当然たいして客があるようではない。

どちらかというと自分の趣味で集めていて、ぶらぶらと遊んでいるのは体裁が悪いので商売をすることで 体裁を整えているといった感じだ。

先日、照明器具が一斉に壊れた件については変電機の故障で一時的に過電流が流れた事でLEDなどの発光体が壊れたと説明されている様だ。

多分言っている方でも信じていないと思うが、何か合理的に見える理由付けが欲しかったのだろう。

「こりゃ〜臭うな。大量の邪鬼達が通った後じゃな。くせーくせー。」

小さなカゴに猫形態で入っていたドーラがポンッと鬼に戻って言う。

亮(とおる)は大して驚く様でもなく。

「あきらはとうとう鬼を連れて歩く様になったのか?」

と言う。

「なんか、ちっちゃいけどね。」

「ちっちゃいって言うなー。」

飛び跳ねているドーラを抱き上げる。

「ちっちゃくても童羅(ドーラ)は鬼の中でも異端の王だよ。よく懐いたな。」

「おう、よく知っておるのー。お主もわしが良く知っている男と似ておる。」

「えー、亮(とおる)おじさんが誰に似ているって?」

サキが興味深々だ。

「なんじゃあんな有名人をしらんのか?晴明じゃよ、安倍晴明(あべのせいめい)。」

ドーラは普通みたいに言う。

「そんな昔の人間、誰も見た事ねえわ。」

あきらが呆れている。

「ああ、人間はすぐに死んでしまうんじゃったのう。」

「確かに、遠い先祖ではあるらしいんだ。」

亮(とおる)が言う。

しかし遠い先祖って言えばかなり拡散していっぱい子孫がいてもう殆ど他人じゃないだろうか。

「力はあきらに伝わっているようじゃが。」

ドーラは自慢そうに言いながらあきらの膝の上に座ってくる。

「おまえ、どさくさに当たり前のように膝に乗ってくるなよ。」
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