第4話  影

文字数 1,083文字

夕食後ドーラの案内で近隣の分譲住宅地に向かう。

街灯が灯り始めて間もない昼と夜の狭間で、団地に程近い公園は既に人気もなく静まりかえっている。

ドーラが手を握って来る。

「鬼のおまえがびびってどうする?」

「わしは人界は久しぶりなんじゃ。人が鬼を怖がる様に鬼も人が怖いんじゃ。」

ドーラがちっちゃいままトラのパンツで出かけようとするのでそれだと社会的にあぶないので高校生くらいに変身させた。

しかしそれはそれで有名アニメのキャラクターのパクリになってしまうので制服に着替えさせた。

セーラー服だとアウトだが、サキの制服はブレザータイプだったのでセーフだ。(なにが?)

つい、いままで子供の甲高い声で賑やかだっただけに、静かさが更に極まってポカンとした空白のような時間の狭間を感じさせる。

前方の木々の薄暗い陰りにポッと白い影(光と言う感じではない)がある。

ありさではないようだ。

背後の木々が透けて見えて揺らめいている。

もちろん、あきらは霊能者なのだから、通常の地縛霊や浮遊している妖気などは常時見えているし、珍しいわけではない。

普通の人間が人や風景を見るように意識しなくなっているだけだ。

そのような意識にひっかからない霊や気にいちいち関わっていたら身が持たないだろう。

しかし、それが何らかのメッセージを持つ時は別だ。

その、白い影はあきらに何かを訴えているようだった。


近づこうとすると、それは悲しげな表情をしながら手のひらをこちらに向けて制止する。

すると今まで静かだった周囲に漂う霊達がざわめき出し何かに共鳴するかのように険悪な意識を持ち始める。

白い影のようなものは何かを訴えようとしているが言葉にならない。

黒い影のようなものが急速に近づいて来て、白い影をかき消すように動く。

あきらは強い衝撃を感じるが自分のエクトプラズムを使っているわけではないのでたいした事はない。

すばやく九印を結び結界をはる。

黒い影はあきらの前で少し躊躇するように漂うと何事もなかったかのように消えてしまった。

ありさが明良の後ろに立って言う。

「白い影のようなものが消えたわ。」

「あれが連れていったのだろう。」

言いながらあきらは歩き始める。

「お主、あれがわかるのか?」

ドーラが神妙な顔をして言う。

「あれは鬼でも霊でもない。妖(あやかし)じゃ。一筋縄では行かぬぞ。」

周囲に浮遊する、または地に縛られた霊たちが脅えたようにゆらめいている。

たぶん、普通の人には何も見えずただ少しは鳥肌ぐらいは立つかもしれない。

白い影は何かを伝えようとしていたけれど何かが邪魔をした。

あれ達はドーラと同じく冥界の門の向こうから来たのだろうか。


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