第61話

文字数 786文字

「さて、召喚されたことについてだけれども」
 煙の中から現れた大きな白猫が言い出す。
「その前に自己紹介をしようか? 僕は白雲、見ての通り化け猫さ」
 白雲は自分のことを化け猫と紹介し始めた。
「化け猫の証拠に、見ての通り」
 白雲が自分の尻尾を見せる。
「尾が二本に分かれている」
 尾が二本あることよりも人間ほどの大きさの動物がいることのほうが脅威だ。
 人間の本能がそのように反応している。
「恐がる必要などないよ。僕は親切心の塊だからねえ」
この化け猫は自分で親切と言い出した。
「恐がっていないし、むしろ驚いている」
「その親切が当てになるのならいいが」
「世の中には自分で親切といいだす者もいるってこと」
 親切はともかく襲ってくる様子は無さそうだ。
 なにしろ、何の準備も備えもなしに化け猫に直面したのだ。
「召喚したのは俺だ」
 白雲は興味深そうにナツを見ている。
「俺の名前はナツ、人間だ」
 ナツは見ればわかることを言う。
 もっとも目の前の化け猫にとって種族というものの違いがわかるかどうか。
 ナツは手にしている一冊の本を見せる。
 大昔の江戸時代かそれ以前の時代にしか見られない紐と紙で作られた本である。
「この本でお前を召喚した」
「ふむふむ。陰陽師か何か、というわけ?」
「普通の一般人だよ。召喚するのも初めてだ」
「ほう」
 猫の顔の表情は読めない。
 でも声の調子から、感情の起伏が伝わってくる。
「あまり驚いていないな」
「驚いてないさ。召喚されるのは初めてじゃないし」
 白雲は周囲を見回す。
 ナツがいる部屋は広くて、古めかしい。
 江戸時代に作られたような木造建物だ。
「ナツがこの屋敷の主なのかい?」
「そうだ、俺が今はこの屋敷を所有している」
 白雲の目の色が変わったように見えた。
「今は、ね」
「兄が所有していたけれど、今は俺が所有している」
「そうかぁ」
 何かを悟ったように白雲が曖昧な返事をした。
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