第40話

文字数 1,007文字

 「おら、その程度か? もういっぺんやってみろよ」
 あらためて対峙した黄月が狒々を挑発する。
 その挑発に応えるように狒々がうなり出す。
 うなるのを止めた狒々の体がぼやけていった。
 その体が煙ような、影のような姿になって漂い始める。
 「みんな気を付けろ」
 ナツが仲間に注意を促す。
 ただの術ではないはずだ。
 「言ってるそばから黄月が」
 黒い煙が黄月のほうに漂って行ってまとわりつく。
 「迷い狒々の名前の通りだねえ。ああやって取りついて人を迷わせるんだねえ」
 「のんきに言っていられないぞ? 黄月が敵に回ったら厄介だぞ」
 ナツが加勢に行こうと身構える。
 「うるせえ! 黙って見ていろ!」
 黄月が怒鳴ってナツたちに答える。
 どうやら黄月には自信があるようだ。
 黄月が自分の爪に狐火をまとわせる。
 夜の闇の中に炎が辺りを照らす。
 その爪で煙を切り裂こうとする。
 「どうだ!」
 煙になった狒々は黄月の周囲を漂うのをやめて距離を取り始めた。
 「狒々のとり憑きを振り払ったな」
 「でも、こっちに来るねえ」
 白雲に言う通り、煙はナツと白雲のほうに漂ってきた。
 二人とも、煙にまとわりつかれないように距離をとろうとする。
 ナツが距離をとった後で煙に注意を向けると自分のほうには漂ってこない。
 「危ないぞ! 距離をとれ!」
 どうやら煙は白雲に狙いを定めたようで、そちらに向かっていく。
 「へいきへいき」
 白雲はのん気な口調で答える。
 まとわり憑いてきた影のような黒い煙を跳ねるようにして避ける。
 化け猫の身軽さにナツは感心する。
 白雲に翻弄された煙は諦めて今度はナツのほうに向かってくる。
 ナツは霊力の剣を変化させて網の束を構築して、それを手にしっかり握る。
 これならば捕まえられる。
 ナツは狒々の煙を見据える。
 網で捕らえるためにできるだけ近くに引き寄せたい。
 狒々の煙との距離を目で測る。
 ナツは目の筋肉に力が入り、自分の表情が険しくなっていくのを感じた。
 「今だ!」
 誰かの声が聞こえたのと同時に煙に向かって網を投げる。
 霊力の網は広がって煙を包み込む。
 網にからめとられた煙が逃げようと動き始める。
 逃れられないとわかると元の大猿の姿に戻って網を壊そうとする。
 だが引っ張っても、噛みついても壊れない。
 狒々は諦めておとなしくなった。
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