第59話

文字数 753文字


5章

「一族に手紙を送った」
 室内の棚を手で動かして黄月が言う。
 棚のガタつきを調べたらしい。
「さびしいから会いに行くとか?」
 白雲が茶化したが、黄月の反応に興味があるようだ。
「そうじゃねえ、そんなことあるものか」
「どうだかねえ。黄月は思ってなくとも、向こうは思ってるかもねえ」
「そんときは、帰ってこい、と向こうから言うさ」
黄月は白雲の言葉を気にしていない。
黄月に悩み事は似合わないな。
「水虎の件は解決したってな」
 黄月の言葉にナツは手に持った石を見る。
 石には水虎が封印されている。
「自分が乱暴なのも先祖の遺産だ。うれしいことではねえが」
 黄月の言葉はどこか遠くに向けて言っているように聞こえる。
 黄月はあらぬ方向を一瞥した。
「厄介な遺産が重荷になることはない?」
「俺の一部になったものは、重くは感じねえな」
 そう言って黄月は腕を振り回して肩をほぐすような仕草をする。
「今回のは一部になりそうにもねえが」
 気落ちしていく黄月に向かってナツが話す。
「どのみち、軽ければ、遺産とは思わなくなってしまうかもな」
 黄月はナツの言葉に考えこむ。
「感情の問題か、あるいは。運命というか、そういう大きな流れみたいなものかもな」
「そうかもしれねえな」
 黄月はどうにか納得したようだった。
「意味があるとは思いたいがな」
そう言って黄月が部屋の中を見渡す。
この部屋には妖怪たちが封印された物を保管する場所である。
木製の棚が置かれた地下倉庫である。
 黄月が見渡した棚には封印物が大量に並べられている。
「ここに置いておこう」
ナツは棚の一角に二つの石を置いた。
大ドクロと水虎が封印されている。
水虎たちには反省が必要だった。
「こいつらはどう反省するのかねえ」
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