第71話
文字数 558文字
まっすぐな視線をナツに向けて、酒匂は言う。
「私たちは本の力を恐れています」
「妖怪たちを支配するのではないかってね」
「人間のほうは、本を恐れていないと思う」
「そりゃ、人間にとって有利に作られているからだよ」
自分たちの恐怖の感情を狸妖怪の姉弟が話す。
もっとも目の前の二人はまるで恐れている様子などないが。
「妖怪退治をする者はイタズラでも処刑するのが本のやり方さ」
衝撃的なことを酒匂が言う。
「真面目にやっているなら処刑なんてしないで済むと思う」
「妖怪は人とは違うのだから、上手く合わせられないこともある」
足元にいる文友が狸の手を見せて、人間とは違うことを示す。
「妖怪退治をする者はこの程度でも、処刑したりするから、試したんだ」
白雲が説明する。
「だからそこは受け入れて欲しい」
酒匂の頼みにナツは黙っている。
突然の申し出に頭が働かない。
まだ、妖怪にどのように対処するかわからない。
「ともかく支配することは考えていない」
否定することで安心させられるとナツは考える。
「その言葉を信じるよ」
酒匂はそう言うが、不安を持ったままに違いない。
帰っていくタヌキ姉弟の背中をナツたちは見送る。
「わだかまりが残りそうだったな」
「大丈夫さ、彼らには伝わるよ」
「しかし、妖怪は必ずしも良い奴らばかりではないのだな」
「まあ、そうだねえ」