第77話
文字数 485文字
住んだばかりの屋敷についてナツは詳しくないので、防備の傍らに見て回っていた。
「秘密があるって思っているの?」
「そうだ。あるかもしれないって」
背後からナツは声をかけられた。
声の主は朱音だ。
さすが猫妖怪だけあって、忍び寄るのは得意なようだ。
「この屋敷に来るまでに見かけたけれど、古い家ばかりだ」
「この辺りはみんなそうだよ」
何十年も昔からの、ひょっとしたら何百年も昔からの家が建っているのだろう。
「妖怪も同じように長い間、住んでいるのか」
「そう。だから、何でも聞いてみるといいよ」
「でも、わたしはまだ、若くてわからないことが多いから手加減してね」
そう言って朱音は片目をつぶった。
こうしていると化け猫の朱音は人間の少女と変わらない。
「この家は俺が兄から受け継いだものなんだ」
「そうなんだ」
「兄が亡くなって、彼は何も残さなかった」
断捨離でもしていたのか遺品らしいものはなかった。
「何もないの?」
「この家以外は何も」
「それがこの家に住む理由なのかな?」
「どうかな、まだわからない」
なぜか、妖怪たちの戦いにナツは巻き込まれている。
自分の命も危ないのだから、他人事ではないのだが。