第48話

文字数 975文字

「とはいっても相手は昔からの恨みのようなものを押し付けてきているよ?」
 黄月ともども屋敷の奥の部屋で話し合う。
 傍らにナツに送られた段ボールが山積みされている。
 この部屋に黄月が入って3人になったのでさらに狭くなった。
「水虎は過去から続く恨みを正当化しているな」
「そいつが勝手に恨んでいることだ」
 黄月が部屋に積まれた段ボールを眺めていく。
「それに過去に戻ることなどできねえ」
 段ボールのほこりっぽさに鼻をくすぐられたのか、指で鼻をこする。
「水虎をつかまえて問いたださないといけないねえ」
 白雲がナツに言う。
「そうだな説明不足だ」
恨まれる筋合いはあるかもしれないが、予見はなかった。
「俺のほうもこれの説明を聞きたいんだが」
 黄月が段ボールについて指摘する。
「あれはねえ」
白雲が段ボールについて説明を始めた。
「そうか」
 黄月の感想はそっけない。
 ナツはその態度に少し鼻白んだ。
 黄月のように段ボールを眺めまわすが、減ったりも増えたりもしない。
「このひどい遺産を引き継ぐわけか」
「それで迷っている」
「迷うのも当然だぜ。ガラクタに見えなくもないからな」
「まあ、ガラクタと言ってしまってもいいな」
 黄月の率直な意見を聞いて、ナツが横目で段ボールを見る。
「捨てるには惜しいってところか?」
「それもある」
「思い出という感情的なものが引っかかっている」
「なるほど」
 黄月がため息まじりの息を吐きだした。
「俺は水虎みたいな奴は、遺産に数えたくはないがな」
「恨み混じりの遺産について黄月よりも、相手のほうの記憶が信頼できるっていうのがねえ」
 白雲が明るい口調で言った。
「俺の記憶が間違っているわけねえだろ」
「どうかなあ」
「相手が無理に押し付けているから、水虎は放っておいてもいいぞ」
 黄月が乗り気でないなら、他の妖怪たちが水虎の相手をすることになる。
 そのやり方が絶対に正しいわけではない。
だが、狂犬みたいな妖怪をこの街で野放しにしたくはない。
「僕らで処理しちゃってもいいかもね。無駄にトラブルが増えるかもしれないし」
ナツと白雲の意見を聞いて黄月が答えずに視線を漂わせている。
迷い始めたのだろう。
「それとも自分で対決して、水虎の言い分を聞くのかねえ」
「どうせ、奴の狙いは俺だ」

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