第37話

文字数 661文字

 「そういうわけで無くなった石が必要になるんだ」
 ナツの話を聞いて倉多は落ち着かなく視線を動かしている。
 本当のことを話すのに思案しているのだろう。
 「義理立ては良くねえぜ」
 黄月が迷っている倉谷向けて言う。
 「“義理”というわけじゃあ」
 内心を言い当てられたのか倉多がさらに動揺した。
 でもすぐに決意した面持ちになった。
 「誰もが“良い”人間になれって言ってくる。だからその通りに行動した」
 倉多は気落ちして視線を地面に向ける。
 「誰かがその行動を“良いこと”と言ってくれたか?」
 「そう言われなくても心がけろって」
 誰かのため息が聞こえた。
 「石を渡したのも良いことだったのかな」
 白雲の言葉に倉多は黙ってしまう。
 「皆に合わせないと悪いことをしているみたいで」
 「だから、森に来た時も付いていった」
 「みんなのための行動は良いことでしょう?」
 倉多がすがるような目で皆を見る。
 結果として悪いことになった。
 鬼熊たちは迷惑をしたのだ。
 「もう、じゅうぶん良いことはしたよ。みんなのために役立った」
 ナツは倉多を正面から見て、諭す。
 「良いことって周りに合わせることじゃあない、と思うけれど」
 横やりを入れる文友をナツは横目に見る。
 文友が小さい手で口をふさぐ。
 「人格者であろうとなかろうと、人の役に立ちたい気持ちがあるのなら協力してくれ」
 倉多が小さくうなずいた。
 「一緒に行った友だちに渡した」
 ナツは安堵の息を吐く。
 「協力してくれてありがとう」

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