第34話

文字数 651文字

 「こういうときは便利なんだが」
 ナツが召喚用の呪文字を地面に展開させながら言う。
 呪文字は日の落ちた薄暗い中で、緑色に光っている。少しだけ不気味だ。
 これじゃ明かりの代わりになんねえな、と黄月がぼやいている。本を作成した者は明かり代わりに作ったわけではないだろうな。
 呪文字に囲まれた場所がひときわ輝いて、そこに人影が現れる。
 小さな人影だ。
 ナツと黄月が森で見たから判別がつく。集まった仲間の中でいちばん年をとっている杉野が人影にすこしだけ反応した。
 「ふむ、これで私も身の潔白が証明される、ということだわ」
 召喚された鬼熊は開口一番で、あけすけなことを言い出す。
 見た目が小学生な杉野よりは背が大きく、はつらつとしている。
 子供というよりは小さな女性、という雰囲気の外見だ。
 「・・・・・・」
 初対面の人が多いせいもあるが、無反応なのは事件が行き詰っているせいもある。
 「あれれ? みな黙り込んでしまっているわな」
 「ひさしぶりじゃのう」
 皆に代わって杉野が挨拶をする。
 「おお、杉野かひさしぶりだわ」
 鬼熊は杉野の旧知のようで元気よく挨拶を交わした。
 「ナツが調査のためにおぬしを呼んだんじゃ」
 「ふむ」
 鬼熊は小さい体の割には大きな胸を張って構える。
 「事件について、まだ、隠していることがあるんじゃないのか?」
 ナツが人差し指を突きつけて問い詰める。
 「・・・・・・」
 騒々しかった鬼熊が黙ってしまった。
 やはりまだ何か知っているようだ。
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