第23話

文字数 1,164文字

 鬼熊は降伏して逆さづりから解放された。
 解放された鬼熊は人間の姿に変身してナツたちに応対した。
 黄月が鬼熊の人間の姿を見て“ちっこい姉さん”と評していた。 
 見た目が子供な文友に比べると、鬼熊はちっこいだけで大人の女性の外見だ。
 「わしは、社にいたずらした者を追いかけてきただけだわ」
 鬼熊は威厳を見せつけるかのように胸を張って言う。
 「なんも危害を加えておらん」
 無罪を主張するその口調には何も含むところがないように感じられる。
 「倉多という少女はずっとつきまとわれていた、と言っていた」
 ナツは“ちっこい”体の鬼熊に向かって言う。
 鬼熊はナツの尋問にまったく動じずに、ナツの視線を受け止める。
 「そんな言われても今日追いかけてたのが初めてだわな」
 鬼熊の言葉を聞いた黄月は片眉を動かした。
 「今まで何をやっていた?」
 黙っていた黄月が鬼熊に聞いた。
 鬼熊が黙ってついてくるように手振りする。
 「この森の社に無理やり祀られるのが嫌で逃げたんだわ」
 ナツたちは鬼熊の後を歩きながら彼女の話を聞く。
 「神であることを押し付けられても、力のないただの妖怪には義務なんて無理なのだわ」
 彼女の足取りは心なしか元気がない。
 社に祭られたからといってすぐに神になれるわけではない。
 「どのみち信仰はすぐに廃れていたんだわ」
 鬼熊の歩く先には小さな社がある。
 子供のような姿をしている彼女よりも小さくて、犬小屋ぐらいの大きさだ。
 「最近になって戻ってきたんだわ」
 鬼熊は言いたいことを言って満足したのか、社の前で仁王立ちになる。
 最近、この森で倉多以外の人間が襲われたという話は聞かないけれども。
 「森に居ねえからと言って、それが襲っていない証拠にはならねえな」
 黄月が小さい社を横目に見ながら言う。
 鬼熊は黄月の指摘を気にもせずにナツのほうをあごで指し示す。
 「ほれ、その本を使って無理やり聞き出してもいいんだわ」
 ナツは自分の所持している妖怪支配の本のことを言われて内心たじろいだ。
 鬼熊はナツの本について知っているらしい。
 本を使って脅したり力を使う前に、機先を制して鬼熊に言われてしまった。
 妖怪を支配すれば強制的に相手を自白させることだってできる。
 それは相手の恨みもオマケに付いてくるのが本の欠点だ。
 「わしはなんも嘘は言っとらんのだわ」
 鬼熊があっけらかんとした口調で言う。
 この様子では確かに嘘は言っていないのだろう。
 ならば真実はどこにあるのだろう。
 彼女を問い詰めるのを諦めた黄月が森の中を見回す。
 「どうもいけ好かねえ場所だな、ここは」
 「わしの社にケチをつけるとは、なんてバッドボーイなんだわ」
 鬼熊が黄月のぼやき反論した。

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