第70話

文字数 796文字


何度も行ったり来たりして、訪問客のために玄関で応対して、疲れてきている。
玄関先には不思議なことに、赤いダルマだけが置いてあった。
他には屋敷を囲んで生えている林があって、静かなものであった。
「見ろ、ダルマが置いてある」
「本当にダルマかなあ?」
「ダルマ以外の何に見えるんだ?」
「動いているねえ」
 ナツの指摘を無視して白雲が疑っているうちに、ダルマが動き始めた
小刻みに揺れてダルマが爆発した。
ダルマのあった場所を煙が覆いつくして、視界を邪魔した。
「ダルマが消えたな」
「この煙は、知ってる妖怪のだから攻撃しちゃダメだよ?」
「攻撃のやり方なんでわからないぞ」
「危険な妖怪は、こんな遠回しなやり方をしないよ」
場を覆っていた煙がなくなると、ダルマが消えていた。
ダルマがいた場所には、タヌキがいた。
やせていて小さい狸がナツたちに話しかける。
「こんちわ」
「ようこそ」
「こっちが新しい妖怪の主かい?」
「そうだよ。僕は一応そう思っているけれどねえ」
 旧知であるらしい白雲が会話を始めた。
 タヌキが発生させた煙を、ナツは手で払う。
 普通の煙ではないようで、煙はすぐに消えていく。
「こっちの元気のいい狸は誰だ?」
「文友っていうんだ、知ってるといいことあるよ?」
 その文友の首根っこを誰かの手がつかみ上げた。
 いつの間にか、メガネの女性が文友の背後にいた。
 この女性が近づくのにナツは気づかなかった。
 不穏な視線で、文友たちを白雲が見る。
「このイタズラ好きがご迷惑をおかけしました」
「そうか、イタズラだったのか」
「鈍いねえ」
「こらっ」
 文友の言葉を女性が叱り飛ばす。
「私は、酒匂と言います」
「この人は文友のお姉さんだよ」
 礼儀正しく挨拶する酒匂を、文友が紹介した。
 猫耳をしている朱音などと違って、酒匂は人間と同じ姿をしている。
 たぶん、妖怪の力で人間の姿になっているのだろう。
「中立的な妖怪の代表として今回は来ました」
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