第20話

文字数 791文字

 黄月は森の前にいた。
 ナツが追いかけてくるのを待っていたらしい。
 「奴はここに逃げ込んだぜ」
 黄月は追いついたナツにそう言って、あごで森を指した。
 森はありふれたものに見える。ナツの記憶ではこの森に名前はついて無いはずである。
 大人はこの森に名前など付けないが、地元の子供らは熊森と呼んでいたのを覚えている。
 なぜ熊森という名前がついているのか、由来はわからない。そもそもこのあたりに熊がいたという話は聞いたことが無い。
 ナツたちは森に入る。
 黄月が明るさを確認するように太陽を仰ぎ見る。
 森に入ると、木々が太陽の光を遮って薄暗いのがわかった。
 外の明るさに目が慣れているけれど、見るのに困らない程度には明るい。
 夕暮れの薄暗さよりもマシで、出会った相手を見間違えることはないだろう。
 木々の上から何かが降ってきた。
 「あぶねえ!」
 黄月が叫んだ。
 ナツと黄月がとっさに場所から離れる。
 降ってきたのはナツの身長の倍もあるような獣だった。
 その巨大な獣がゆっくりとナツたちをにらみつける。
 本を取り出して、妖怪知識を引き出す。
 “鬼熊とは、年をとった熊が妖怪になったもの”
 “二足歩行で、力が非常に強く、大岩を動かすこともある”
 どうやら“鬼熊”という妖怪らしい。
 ナツは本の力で霊力の剣を生み出す。
 輝く霊力の剣を二回振って、感触を確かめて構える。
 鬼熊をはさんで反対側では黄月が爪を伸ばして戦闘態勢を整えているのが見えた。
 鬼熊が移動して、ナツたちも挟み撃ちにしている状態を保って移動する。
 移動している間にナツと鬼熊の間に大木が入り込んでしまう。
 「!」
 ナツが相手を見ようと動く前に、鬼熊が大木に体をぶつけてきた。
 さらに鬼熊は体当たりで折れそうになっている大木を爪で切り裂いた。
 大木が横倒しに倒れていく。

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