第30話

文字数 924文字

 ナツと黄月は佐久間教師のいる学校に来た。
 すでにあたりは夕方で門が閉まっているかもしれないと思ったが、高校の門はまだ開いていた。
 周囲に生徒の姿は見られない。休みなのか練習が終わった後なのか部活で残っている生徒もいないようだ。
 怪しまれずに学校に入ることができる。こんなことをしなくても面会の約束でも取り付ければいいのではないか、とナツは思い出した。
 今さらしょうがない。
 二人は学校の玄関口に向かって進む。
 「もう下校しているかもしれねえぜ」
 「そのときは住所を聞こう」
 「俺たちみたいな連中に教えるはずがねえ」
 黄月がもっともなことを言う。
 自虐的にもとれる意見だが本人はまるで気にしていない。
 ナツたちは玄関向かう足を止める。
 「いつもの手で警官を装うか、他のツテをたどるか」
 「忍び込むか」
 黄月が物騒なことを言い出す。
 だが、たいていの場合、忍び込んで調査することも少なくない。
 玄関までの敷地には教師たちの車が止まっている。
 興味を持ったのか黄月が車を眺める。
 「教師の住所を、倉多が知っていればよいのだが。彼女に聞くやり方もある」
 「俺はいつも忍び込むやり方でやっていた」
 ぶっきらぼうに黄月が言う。
 ナツは空を仰ぐ。
 空は、まだ暗くなってはいない。
 太陽が落ちて完全に暗くなるまでの間、逢魔が時である。
 「とりあえず正攻法で訪ねて・・・あそこに佐久間の車があるぞ」
 彼女の赤い車が止まっているのをナツが見つける。
 車のナンバーも一致する。
 「まだ、学校にいるみてえだな」
 まだ佐久間が学校にいるなら話が早い。
 玄関に向かおうとしてナツが足を止める。
 黄月が動かず周囲を伺っている。
 「どうした?」
 「血の匂いがするな」
 正体が化け狐である黄月は嗅覚も人より鋭い。
 ナツは人間なので匂いなどわからない。
 真似して呼吸してみるが、いつも吸っているのと同じ空気に感じられる。
 「生徒が怪我でもしたのだろうか?」
 「いいや、かなりの出血量だぜ」
 そりゃ一大事だ。
 妖怪に関係しているかどうかはともかく重症者に違いない。
 ナツは黄月と一緒に匂いをたどった。

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