第50話

文字数 1,033文字

「いやいや、オレはかなり最初のほうから聞いてたから」
文友が歩いてナツたち三人の中央に出る。
「黄月は、隠そうとしているみたいだけどそうはいかないよ」
 文友の言葉に黄月は鼻を鳴らして答えた。
「お前さんにだけは、水虎の恨みをぶつけてもらっても構わねえな」
 黄月が睨むと、文友はそれをかわすように段ボールの上に飛び乗る。
「オレは周囲に迷惑をかける古い因縁なんて御免だね」
「俺はまだ水虎を相手にするといは言っていない」
「ケンカは買う主義だって、いつも言っていたよ?」
文友が大げさなぐらいに手を広げて言う。
「それはお前の記憶違いだ」
 文友の追求に黄月は譲らない。
 ナツたちの住む地域の狸と狐はケンカなどしないらしいが、この二人だけは例外で、暇さえあれば口喧嘩などをしている。
「黄月の問題は脇に置いておこう」
 ナツが二人のケンカを遮る。
 うなっていた黄月がナツの言葉を聞いて静まる。
「それはそうと、文友は何しに来たんだい? 遊びに来たんならタイミングが悪いけれど」
「伝言を届けに来たんだよ」
「誰からの伝言?」
「神社から集まれってさ。事件の依頼だって」
 神社からは妖怪事件の解決を依頼されることがある。
 街の妖怪たちは争いなどせずに静かに暮らしたいと思っているから、トラブルはなるべく避けたがっている。
「いい感じがしねえな」
 黄月がぼやきはじめる。
「拒否したら後で怒られるよ?」
「構わねえさ、どうせ雑用だ」
「妖怪同士の大乱闘みたいなのが雑用に入ればいいけれど」
「そもそも、文友は伝言係じゃねえだろ」
「そうだねえ、電話はどうしたの?」
「電話で伝えようとしたらかからなかったんだとさ」
 文友の指摘にナツは渋い顔になった。
時間からして、ちょうど水虎が来ていたころだ。
「それで、オレがやってきたってわけ」
 余計な手間暇をかけさせてしまった。
「そういうわけで、神社に行こうぜ」
 文友が段ボールが降りる。
「まあ、ここにいても水虎が来るとは限らないしねえ」
「水虎が来たら来たで、屋敷が壊されるかもしれないし」
 白雲とナツは出かける準備をしようとする。
 ナツは段ボールを片づけるのが後回しになるだろう。
「結局、黄月のとばっちりかよ、ケンカもほどほどにってみんなが言ってるじゃん」
「俺は平和主義だ。ほどほどにやってるさ」
 文友の批判に開き直る。
 ケンカを肯定する言い訳が上手とは。
意外な長所を見たようだ。



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