第57話

文字数 776文字


元旅館の内部は見た目よりも広かった。
二階建ての家が丸ごと入りそうな広間に巨大な人間の骨が立っている。
これが大ドクロ、という妖怪だ。
この屋根を突き破りそうな背丈の白骨が黒い眼窩で侵入者を睨んでくる。
その足元に水虎もいた。
「随分と探したぜ黄月」
「けっ、探す苦労を減らしてやるぜ」
 黄月が勢いよく飛び出していって水虎に襲い掛かる。
 飛びかかる黄月を水虎が素早く避ける。
 避けた水虎が水かきの付いた手の爪で攻撃する。
 黄月はその爪をなんなくかわす。
「長年の恨み、晴らしてくれるわ」
「そんなものは知らん。受け継ぐつもりはないし、お前の勝手な思い込みだ」
「知らないなどと嘘を言っても無駄だ、思い出させてやる!」
「ちっ、面倒なことになったぜ」
 水虎が口から大量の水を吐き出す。
その水撃の威力で廃墟の壁が吹き飛ぶ。
慌てて避けたナツたちに壁の小さな破片が飛んできた。
体に降りかかった破片を手で払いながらナツたちは黄月の戦いを見守る。
 水虎が再び口から水を吐き出す。
 黄月が水撃をかいくぐって、水虎の懐まで走る。
 懐に入った黄月が伸びた爪で腹を切り裂く。
 たまらずに水虎がよろける。
 だが水虎が気を取り直す。
「傷が治っているねえ」
 白雲の指摘のとおり、切られた水虎の腹がふさがっていく。
「再生能力を持っているわけか」
 ナツが言葉を吐きだす。
 これでは半端な攻撃はすぐに治療してしまうに違いない。
「そんな力を持ってるとはな」
 黄月に対して水虎が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「けど首をすっとばしちまえば再生もくそもないだろうがよ」
 気圧されて水虎が呆然としている。
水虎が両手を上げると、それを合図に水浸しになっている足元から水の膜が現れる。
黄月が水に包み込まれてしまった。
「これじゃ、溺れちゃうよ」
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