第５２話

「いつもやってるくせにねえ」
白雲と文友が反論する。
杉野が態度を正してせき払いする。
「雑用とバカにするのもわからんでもない」
「妖怪は働き者じゃないからねえ」
「だが、妖怪の世界は誰かがやってくれるものではないのじゃ」
誰かが何とかしてくれる世界ではない。
誰もやらなければ、永遠に悪化して、放置されるのが妖怪の世界だ。
「おぬしの秘密よりも、こっちのほうが重要なのじゃ」
黄月にとっては厳しい選択かもしれない。
「俺は、野暮用を済ませるだけだ」
嘘だな。水虎を探しにいくつもりだ。
「どちらにしても、今動けるのはおぬしらだけだぞ、他は縄張りにうるさいからのう」
「団体行動を避けるつもり？　古い価値観だけが正しいわけじゃないよ？　大昔の因縁がそんなに重要かい？」
文友のぼやきにも、黄月は何も答えない。
「こりゃ重傷かも」

「ひとり抜けて大丈夫じゃろうか？」
「俺はそうは思わない」
黄月はひとりで水虎を探しに行くつもりだ。
　個人的な問題かもしれない。
　自分たちが立ち入るような問題ではないかもしれない。
　しかし、黄月の性格を知るナツたちからすれば、黄月が正常な判断を下せるとは思えない。
「黄月は混乱しているだけだ。そこまで深刻に受け止めなくてもいいと思う」
「黄月は一族についてなんて考えたことがないから戸惑っているんだねえ」
　白雲の言う通りなのだ。
　黄月は普段から本能とか直感に頼って生きているのだ。
「妖怪でも長生きしてれば、先祖の因縁など付いてまわるものじゃ」
「黄月は、過去を捨ててきたからねえ」
「今が大事というなら、事件も今のものじゃ」
「無理してでも黄月は協力させるさ。奴の力が必要になるときだってある」
　ナツは黄月に対する意見をまとめるつもりで言う。
「ふむ。それとノブスマのところへ行け」
　ノブスマはリスのような小動物の外見の妖怪だ。
「奴が事件を目撃したとか言っておる。本当かどうかわからんがのう」