第62話

文字数 473文字

「その本については知っている?」
「何も知らん。知っていることがあるなら」
 教えてくれ、と言おうとして黙る。
 ナツが急に黙ったせいか、白雲が猫の目で見つめてくる。
「ひょっとしたら、裏があって、騙されるんじゃあないかって思ってる?」
「そのとおりだ」
「大丈夫、僕は人間の味方だからねえ」
白雲がナツの古ぼけた紙束のような本を指さす。
「たとえその本を持っていても味方するよ」
「この本はなんなんだ?」
「本は妖怪を支配するためのものだねえ」
「支配ってわかるかねえ?」
「わかるけれども、妖怪は違うのか?」
「命令には絶対ってこと」
「たとえ火の中水の中ってわけだ」
「そうだねえ」
白雲が畳の上を滑らかに歩きだす。 
妖怪と言っても白雲は猫なので、歩き方も同じなのだろう。
「召喚した妖怪を使役することができるんだ」
「使役は、仕事をさせるということでいいんだな」
「そうだよ」
白雲は天井の蛍光灯を見上げる。
木造の部屋の中は薄暗くて、蛍光灯が頼りなく部屋を照らしている。
「無理やりこき使われるのはいい気分ではないんだろうな」
「それがわかっているなら無理な召喚はしないことだねえ」
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