第53話

文字数 762文字


「まったくひどい奴だ」
そうぼやくノブスマは大きなリスのように見える。
リスと違うのはわきの下に滑空用の皮膜が生えていることだ。
どちらかというと茶色のムササビに似ていた。
「そこまでひどいの?」
「俺は暴力が嫌いなのよ」
「それでどうなった? 暴力嫌いが」
「いきなり、水と根元から引っこ抜いたような木が飛んできて大慌てさ」
「相手は怪力の持ち主だねえ」
「それで、逃げたのか? それとも、返り討ちにしたとか?」
 ノブスマは黄月の追求に無言で首を振る。
 大げさすぎるぐらい首を振った。
「とんでもない」
力いっぱいノブスマが否定した。
それはそうだ。
妖怪だからと言って誰もが戦う力を持っているわけではないのだ。
「慌てていると、森の木々よりも大きな体が太陽の光を隠したんだ」
 ノブスマが木々を指さした。
 ナツはつられて見上げる。
 指さした木々の高さは3階建ての家よりも空に伸びている。
「で、ヤバイと思って逃げたね」
「大柄な妖怪なんてそんなに多いわけではないねえ」
 白雲が周囲を見渡して、水浸しになった地面と放置された大木を見る。
 足元にある水たまりを見て、不快感を示すように眉をゆがめる。
「水の妖術はどんな妖怪のものだ?」
ナツが聞くと、ノブスマは水を扱っていた妖怪の特徴を言った。
特徴は水虎のものと一致する。
黄月の目つきが険悪になってきている。
ノブスマが不機嫌そうな黄月に気づく。
「この乱暴狐の知り合いで?」
「まだ、わからん」
ナツはノブスマの質問を適当にはぐらかす。
普段ならともかく、今は黄月がおかしな行動をとらないように気遣わないといけない。
「知り合いだったら、ろくでもないことだ」
「不満はともかく、逃げることができたんだな?」
 ナツは話を進めた方がよさそうだと判断した。
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