第36話

文字数 1,013文字

 「“迷い狒々”と呼ばれているのだわ」
 鬼熊がもう一人の妖怪について説明した。
 「社から離れたところに祀ってあったのだわ」
 土盛りの上に石が飾ってあるのが“迷い狒々”を封じた塚であるという。
 鬼熊の証言を確認するためにナツたちは森にやってきた。
 彼女の言うように社から離れたところへと向かった。
 すでに真っ暗な森の中で懐中電灯を照らしながら進む。
 目的地に到着すると確かに盛り土があり、塚のように見えるものがあった。
 「石が見当たらんな」
 黄月が遠慮なくぼやいた。
 彼の言う通り確かに盛り土の上にあるはずの石がない。
 「本当に石があったのか?」
 懐中電灯に照らされた盛り土をから目を離して鬼熊のほうを見る。
 「確かにあったんだわさ」
 鬼熊が慌てて否定する。
 「誰かが盗んでったのかもしんないねえ」
 白雲がヒゲを指で伸ばしながら推測する。
 ナツが一緒に来た佐久間教師を見ると、首を横に振った。
 彼女ではないらしい。
 「そうなると、残っているのは」
 白雲が携帯電話を使って連絡を取る。
 妹と電話ですこし話した後に、本題に入った。
 「女の子たちが石を持ち出したって?」
 白雲兄妹の会話を聞いて、皆が視線を交わす。
 会話内容では、朱音がそういう話を聞いたらしい。
 「それで石はどこに?」
 しばらく会話がなく静かなまま。
 白雲がいったん電話口から離れる。
 「どうやら話したくないみたいだねえ」
 倉多は話せない事情があるようだ。
 「説得するしかない。連れてこさせよう」
 ともかく倉多に話してもらうしか方法がない。
 しばらくして朱音が倉多を連れてきた。
 隠し事をしているであろう倉多は萎縮しているように見えた。
 佐久間教師と目が合うと軽く挨拶を交わした。二人は知り合いのようだ。
 まずは、鬼熊と面通ししないといけない。
 「会わせたいのがいる」
 そう言ってナツは鬼熊の方を示す
 「うむ、私が社の主なのだわさ」
 倉多はすでに妖怪について知っているから驚くことはない。
 「彼女が社の主、鬼熊だ」
 倉多は驚いて戸惑っているようだった。
 社にいたずらして怒る者がいることは知らなかっただろう。
 「ごめんなさい」
 倉多は頭を下げて素直に謝った。
 「うむ、罪を償うために、知ってることを話してくれなのだわ」
 ナツは事件解決のために、これまでわかったことを話す。
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