第73話

文字数 852文字


鎧姿の人間が姿を現した。
体つきは大柄の人間であるが、顔は人のものではなかった。
赤く牙の生えた鬼の顔をしていた。
離れた地面に刺さっていた槍を鬼が引き抜いた。
「武器を取り戻すぞ」
「いや、ここは無理しないほうがいいよ」
 白雲の言葉にナツは従って待機する。
「すこしは肝が据わっているようだ」
 鎧姿の鬼が話しかけた。
「俺たちは、お前たちの支配など関係ない」
 威嚇するように手にした槍を振るって、鬼は言った。
 それを見ても隣の白雲は顔色を変えない。
「悪の妖怪は、支配を受け入れないからねえ」
「武器を投げるのも支配のうちか?」
 鬼たちのあんまりな態度にナツは言った。
「どうとでも言え」
 ナツの皮肉っぽい物言いに、鬼たちは動じない。
「ともかく、誤解だ。俺たちは妖怪の支配なんて考えていない」
「誤解ではない」
 鬼たちがにらみつける。
 その受け入れがたい視線をナツたちは受け止める。
「ともかく支配など考えていないし、本を手に入れたのは、ついさっきだ」
「そんなことはどうでもいい、それを持っているというのが問題なのだ」
 鬼たちはナツの言葉に耳を貸さない。
「本を持つ者には死あるのみだ」
 鬼の断言に白雲が眉をしかめる。
 そのように挑発して鬼たちは帰っていった。
「穏やかな交渉などできなかったな」
「何さ、勝手なことを言って」
 ここまで黙っていた朱音が腹を立てる。
「ナツ、あんなの相手にする必要ないよ」
「そうだな」
 ナツの返事に同意して、白雲もうなずく。
「協力する妖怪も一緒に殺されるらしい、ひどい連中だな」
 いまいち実感を持てないナツであった。
 これまでもケンカなどで罵りと殴り合いを、ナツは経験してきた。
 しかし、今回のは今までとは違う
 違うからこそ緊張感が持てないのかもしれない。
「ひとりひとりを相手にはしないみたいだねえ」
 のんびりとした口調で、白雲が言う。
 怒るよりも先にナツの心が落ち着いていく。
「全員まとめてってことなのかなあ?」
 人差し指をあごに当てて朱音が考え込む。
「そうみたいだねえ、まあ予測はできたことだけど」

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