第67話
文字数 1,134文字
「とりあえずは掃除が終わったな」
「まあ、細かいところは後々にやればいいからねえ」
「古い屋敷も掃除をすれば居心地がよくなるもんだな」
「まったくだねえ、一人で住むには広すぎるぐらいだし」
玄関から誰かの声がして、召喚された妖怪たちは掃除が終わって休んでいたが、彼らも声を聞いて玄関のほうに反応した。
「誰か来たみたいだ」
「きっとお祝いに来たんじゃないかねえ」
「引っ越してきたばかりなのに誰か来るのだろうか?」
「僕が見に行ってみるよ」
白雲が白い二本の尻尾を揺らして、ほこり一つなくなった畳を通って、部屋を出て行った。
しばらくして白雲が少女を連れて戻ってきた。
部屋に来た人間の少女は、赤い髪の毛をしていて、丁寧な挨拶をしてきた。
彼女も妖怪らしく猫の耳が頭から生えていて、料理の入った包みを両手に持っていた。
「この子は妹の朱音だよ」
「よろしく~」
兄の声に負けず劣らずののん気な返事をした。
「家族が、妹がいるのか」
「うん、そうだよ~」
白雲に代わって朱音が元気に答えた。
そりゃ、動物みたいな存在なのだから家族ぐらいはいるよな。
「それはそうと、引っ越し祝いを持ってきたんだろうね?」
「うん、持ってきたよ」
「見て、これは私が作ったんだ」
朱音は引っ越し祝い重箱料理を机に広げていく。
「おお、我々もご馳走にあずかってもいいですかな?」
「いいよ~、大丈夫、大食い妖怪向けに作ってくるように言ったから」
「ひとこと余計だよ」
「兄貴の言葉こそ余計だよ」
二人の兄妹ケンカを無視して、ナツと妖怪たちはそれぞれ料理と取っていく。
引っ越し後のくつろぎの時間が過ぎていく。
食事をしている妖怪たちは人間とあまりかわらない。
「食べながら聞いてくれればいいけれど」
「なんだ?」
白雲がこっそりと話しかけてくる。
こんな場所で内密の話とは。
「召喚した妖怪は恨みを持ったりもするから」
「そういうことは早く言え」
それならばここに召喚された妖怪たちも密かな恨みを持っている、ということになる。
「まあ、この程度の引っ越し作業で怒るものはいないけれど」
「それなら安心だ」
「召喚するときは注意するように」
のんびりとお茶を飲んでいる妖怪たちが目の前にいる。
この連中も時と場合には恨みを持ったりするのだろうか?
そもそも、白雲もまた召喚された妖怪だ。
「教えないのは、フェアじゃないから」
「せっかく本を使える人間がいるのに驚いて投げ出すのも困るし」
「まあ、事情を知らなければ驚くだろうな」
「だから教えたんだ」
何かを試されているような気持ちだ。
白雲もナツに対して十分に信頼しているわけではないのだろう。
「たぶん、大丈夫だろう」
ナツは白雲に、というかどこかに向けて言う。
「無理やり支配する機会などないだろうし」