第63話

文字数 585文字

「それから付け加えると」
 白雲が脇にどけてあったちゃぶ台に足をぶつけそうになる。
 白い体毛の体をしなやかに動かして、注意しながら歩く。
「その本は誰でも使いこなせるわけではないよ」
「本が人を選ぶ」
「そうそう、わかっているねえ」
「誰も選ばないこともあるんだろうな」
「そうだねえ」
「まだ、俺が選ばれたってことに実感がないんだが」
「まあ、選ばれたってことで納得するしかないねえ」
「とりあえず召喚を試してみよう」
「まあ、やってみて」
「ずいぶんとそっけないな」
「どうせ仕事を行わせるんでしょ?」
白雲が部屋の隅に置かれた掃除用具を見る。
その掃除用の道具はさっきまで使われていたせいで雑に置いてある。
「まあな」
「呼ぶなら、僕の知り合いのほうがいい。そのほうがトラブルは少ないよ」
「そうしようか」
ナツは召喚術をかける。
煙とともにナツより小柄な妖怪が召喚される。
その妖怪は頭の上に皿が乗っていて、緑色の甲羅を背負っている。
「本当に召喚できたな。偶然ではないようだ」
「彼の名は、河童の三郎太だよ」
 河童は紹介した化け猫のほうを見る。
「白雲ではないか」
旧知だけに気さくに声をかけてきた。
「噂で聞いてはいたが、本の使い手が現れたのだな」
「この本で召喚した」
「では、なんなりとご命令を」
頭を下げているがすこしだけ伺うような目つきをしている。
「屋敷の掃除だ」
 ナツを含んで全員が小さくため息を吐いた。

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