第56話

文字数 778文字


4章

「重要情報だぜ」
「本当だろうな?」
「俺がウソついたことあったっけ」
「数えきれないぐらいあるぜ」
 黄月の答えに文友があさっての方向を見る。
「まあ、今度は、ホントだって。親父からのものだから」
「それなら、信用できるねえ」
 密かに信用していなかった妖怪がここにもいる。
「誘拐犯の居場所がわかったって」
「それで、ここを指定したわけか」
 文友の言う居場所は、元旅館の廃屋のように見える。
遠巻きに見ても、屋根がなくなっていて原型をとどめていないのがわかる。
人は住むことができない。
けれども妖怪は棲める。
「黄月のほうは?」
「水虎をあきらめたくても、奴が事件に絡んでるとかで、面倒なことになっている」
ナツが文友に説明してやる。
彼なりに心配しているのかもしれない。
「大変だあ」
 あまり大変そうでない口調で文友が言う。
「いつものようにからかったりしないのか?」
「オレだって、同情ぐらいはするよ。相手が乱暴ものでもね」
 黄月には文友の言葉が癇に障ったようだ。
 小さい狸の前にやってきて、威嚇するように爪の生えた指をつきつける。
「俺はチビ狸に同情されるほどおちこんでねえぞ」
「情報は信用できるとおもうねえ。僕のヒゲが張り詰めているのがわかるからねえ」
猫のヒゲがいつもより張りがあるように見える。
「そうだな。ともかく、アジトに踏み込もう」
「おいおい、あれ見てみろよ」
 ナツたちが話し込んでいると、鱗だらけの体をした妖怪が元旅館の建物に入っていく。
 黄月に因縁のある水虎だ。
 悪いタイミングだ。
「ちょうどいい、まとめて倒してやるぜ」
 黄月は暴れるのが嬉しそうで、爪をきらめかせている。
 ナツたちを無視して建物に走っていってしまう。
捕まえなければならない者が一ヶ所に集まっているのは合理的ではあるのだが。
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