第43話「恐ろしき遺産」

文字数 1,164文字


1章

「ここに置いとこう」
部屋は古めかしく、柱などは黒ずんでいる。
清潔さは保っているが、古さからくる独特の乾いた臭いは消すことはできない。
そして古い屋敷にありがちな、電灯をつけても現代的な家ほど明るくならない。
部屋の柱が黒ずんでいるのが理由であろうか。
「そうだねえ。この部屋は使っていないし」
部屋には、中央に段ボールが積まれていた。
数個の段ボールだが、部屋は広くて、人が歩き回れるだけの余裕があった。
その段ボールの山積みを中心にして、二人の人型がいる。
片方は人間である。
見た目は20代だが、雰囲気は30歳ぐらいの男性である。
もう片方は、人ではない。
全身白い毛に包まれている猫である。
猫と言っても人間と同じぐらいの大きさのものが二本足で立っている。
本来は1本であるはずの尻尾は2本伸びている。
「ナツ、これはいったいなんだい?」
 二足歩行の白猫が人間に聞く。
「見ての通りだ、白雲。持ち物整理というやつだ」
 ナツと呼ばれた人間が二本尻尾の白猫に答える
「整理しなければならない物なのかい?」
「たぶんな」
白雲が積まれた段ボールから距離をとるように立っている。
ナツは段ボールを開く。
中に詰まったほこりが舞い上がる。
そのほこりを避けようとして白雲が顔をそむける。
ナツは漂うほこりを手で払って、段ボールの中身を物色する。
「遺産の中にはひどい遺産もある」
「まあ、そうだねえ」
「ずいぶんと乗り気でないな」
「ないねえ。この目の前の品物と、ナツの言うことは別だからねえ」
「これは亡くなった兄貴のガラクタだよ」
白雲は答えずに片眉を器用に上げてみせる。
「まあ、見た目からしてひどい遺産だよ」
「本人にしか価値がわからないからねえ」
「親父のほうで処理しないのは、迷っているのだろう」
白雲が無言でナツのほうを見る。
「待て、父親をダシにして俺の方が迷っていると言いたげだな」
「うん、そう。ナツのほうが迷っていると思っているよ」
白雲に言われた通りナツは捨てるかどうか迷っている。
周囲に視線を向けるよりも、段ボールのほうに視線を向けている。
「白雲の言ったとおり、自分で迷っているな」
ガラクタの入った段ボールを見ながら同意する。
「とりあえず中をすべて確かめてから」
「役に立つものが残されていればいいけどねえ」
「役に立つものだったら親父が自分のものにしているかも」
「どうかなあ? 人によりけりだし」
段ボールのひとつを開ける。
本が隙間なく詰められていた。
「ほら、便利なものが入っていた」
「白雲にとっては、だろ?」
「いやいや、読んでみたら面白かったというのもあるし」
白雲が本を一冊つかむ。
「遺産というのも面倒なものだな、こういうのは」
 玄関から物音が聞こえてきた。
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