第64話

文字数 502文字

ナツの屋敷はガラクタだらけであった。
元からこの屋敷にあったと思われる物ばかりだが、ここに住んでいた兄が残した物ものもある。
妖怪たちによって片付けが始まる。
「その包みは何?」
 ナツが片づけようとした包みに白雲が興味を持つ。
「中は空だぞ」
 包みの中を開けて見せる。
「でも、ナツに向けて書かれているねえ」
「これは兄貴の字だ」
「中には何が入っていたんだい?」
「さっきの本がこの中に入っていたんだ」
「そうかあ」
「兄貴の遺産というわけだ」
 この家も、中にある物もナツの兄が所有していた。
「受け継いだってわけかねえ」
「そうなるな」
 ナツは部屋の中をぐるりと見た。
 この屋敷にナツは一度も来たことがない。
「不満でも?」
「生前に兄貴は何かと、俺のあとを受け継ぐんだ、なんて言っていたから」
 ナツは腕を組んで兄の生前の言葉を思い出そうとする。
「ずっと冗談だと思っていた」
「まあ、唐突にそんなことを言われたら戸惑うよねえ」
「そう、意味がわからないままだった」
 ナツは肩をすくめる。
「でも、そうでなくなった」
「僕らは、歴史の中を生きているのだから、いつも何かを受け継いでいるもんだよ」
「白雲の言う通りかもな」
 ナツは寂しく笑う。

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