第79話

文字数 764文字


河童の三郎太から玄関に白雲がいることを、ナツは聞いた。
玄関に来ると小説を読みながら、白雲が立っていた。
「ここにいると三郎太から聞いたんで」
「そうかあ。でも、来るように言ったのは朱音のほうかな?」
「御名答、妹と話したんだ」
「朱音は人間に興味を持っているからねえ」
 読んでいた小説を閉じて、片手で髭をいじり始める。
 体毛と違って猫の髭は固くて曲がりづらい。
「白雲は興味を持っていないのか?」
「そんなことないさ」
 もろ手を上げて体で気持ちを表現しようとする。
「僕は人間の大ファンだよ」
「その小説がファンアイテムかい?」
「そうとも言うね」

 白雲の持っている小説を、ナツは指さす。
「それで、小説を読むのが毎日の日課?」
「そうじゃあないよ」
持っていた小説を白雲が渡してくれる。
著者に白雲総士郎と書かれているのを、ナツは見る。
どこかで見たような名前だな。
「僕は見た目よりもしっかりしていてね」
「ほう」
「作家を生業としているのさ」
無職ではないのか。
まあ、そういう妖怪もいるだろう。
「どういう経緯でその仕事を始めたんだ?」
「僕の父親は、人間に飼われていたことがあってねえ」
その後、父親は化け猫になったということだ。
「人間に対する思い入れも、父親の教えだな」
「そうだねえ過去から続く道のりが未来にまで伸びているのさ」
「だから、僕は人間との関係を重んじて味方しているのさ」
 自分の著作と思われる小説を眺めて、白雲は満足したようにうなずく。
「人間への興味は尽きないよ」
「妖怪の書いた小説はないのか?」
「あるかもねえ。でも、書くのには忍耐が必要だから」
 誰にでも忍耐が備わっているわけではない。
忍耐がある妖怪も少ないだろう。
「納得したかねえ?」
「ああ、よく理解できた」
人間に肩入れしたがる白雲にナツは納得した。
 そういえば、黄月の奴は大丈夫なのだろうか?

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