第65話

文字数 1,142文字

「もう一度、妖怪を召喚してみる」
「まだ必要なのかねえ」
「まだ、俺は信用していない」
「たしかに確認は必要だけどねえ」
 ナツは本を片手に持って、召喚手順をなぞる。
 まだ召喚の流れはたどたどしい。
 そうして、ナツは妖怪をさらに何人か呼び出した。
どんな妖怪を呼べばいいのかは白雲が教えてくれた。
 そうして、召喚した妖怪たちはどうやら現実であると確信した。
「疑いようもない実物ですからなあ」
河童がナツの疑惑を払しょくするように言った。
白雲が河童に相づちを打っている。
「何をもって本物と証明するのやら」
 ムササビのようなものや、顔の無いのっぺらぼうのようなものが召喚された。
彼らは屋敷を珍しそうに眺めている。
今回召喚された者たちは山野にいるような連中である。
いつも眺めている風景とは違うのだろう。
 人間の家が珍しいにちがいない。
「まだ片付けの途中だったな」
「引っ越しの途中だったのかと」
「元住人の後片付けをしているのさ」
「まるで人手が足りていないわけですな」
「まあ、そうだ」
 河童の三郎太の指摘にナツの言葉が詰まる。
「では、荷物整理を行ってください」
「いやいや、君もやるんだよ」
三郎太に指図された白雲が言い返す。
 屋敷の片づけはナツの想像以上にはかどった。
 何よりも妖怪たちは体力が違う。
 山育ちなのか、屋敷の中を動き回って荷物を運んでくれる。
 ナツのほうが邪魔になりそうだった。
「良い物を受け継いだかも」
 思わずナツが言葉をこぼした。
「悪いものだったような言い方だねえ」
「そうは言うけれどな」
 ナツは指図通りに働く妖怪たちを眺める。
「その言い方だと、この本が良い目的のために作られた言い方だぞ?」
「すくなくとも、僕の聞いた話ではそれは善良な人のために作られた、と聞いているよ?」
「妖怪を召喚して支配してこき使う、など善良というのだろうか」
「まあ、よくわからない品物も世の中にはあるから」
 妖怪たちもこの本のことを詳しく知っているというわけではないようだ。
本当に何のリスクもないのか不安になってくる。
「小さなものはすべて片づいたねえ」
 大望に付いたほこりを払いながら白雲が言う。
「あの大きなタンスを片づけないとな」
 ナツは自分の背丈ほどもあるタンスを見る。
「では、さっそく」
 呼び出した妖怪たち数人でかかるが動かない。
「あまり無茶をすると横倒しになるから」
 白雲が力まかせになっている妖怪たちを止める。
「我々には無理ですぜ」
 河童があきらめの言葉を言う。
「力のある妖怪を呼んだ方がいいな」
 ナツはそのように思い付き、大型の妖怪を呼び出す。
 天井までの高さのある一つ目の入道が現れる。
 ナツが指示を出すと、入道は素直に従った。
 タンスを軽々と持ち上げて運んでいく。
「これで最後の荷物が片付いたねえ」
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