第16話

文字数 1,021文字

 会話する声が近づいてきて部屋までやってきた。
「黄月、人格者というのは何のために存在するのかわかる?」
「知らん。興味がない」
「君みたいな乱暴な奴ばかりだと物事がうまくいかないからさ」
「文友、お前がそう言っているだけで、すべてがうまくいっている」
「いいや、うまくいってない」
 声の主が部屋に入ってきた。
 入ってきたのは二足歩行する狐と狸の姿をしている。
 黄月と文友の二人は妖怪である。
 文友は狸の妖怪で、尾は二本。
 やせていて、茶色の毛皮で、風呂に入っているのに毛並みがボロボロで整っていない。
 黄月もまた、尾が二本の狐である。
 金色の毛は皮膚に張り付くように生えていて、身体の輪郭がはっきりする。
「毎回、ケンカを始めるじゃん」
「そんなことはない」
 この二人の口喧嘩はいつものことである。
「じゃあ、なんなのさ」
「あれは、高度なボディランゲージだ。平和的な話し合いだ」
「高度? 平和的? 本当にそうなら、僕のため込んだ不満と恐怖は何?」
「俺の健康を気遣う思いやり、だ」
「思いやりだってさ」
 文友がナツたちに向かって大げさな仕草をしながら言う。
「気遣いなら、殴った相手のほうにも必要だ」
 ナツが黄月のことをたしなめる。
「平気だ、軽く、そして手加減している」
「手加減?」
 白雲が眉を上げて興味深そうに聞き返す。
「そうだ」
「それも高度なボディランゲージ?」
 文友は黄月の言葉をまるっきり信用していない。
「ハイレベルだ」
「ボディブローランゲージかもな」
 ナツは手を横に振る仕草で否定する。
「大丈夫だ、相手もわかってくれる」
 黄月の言葉に一同が呆れる。
 玄関から引き戸の開く音がする。
 白雲の妹の声が聞こえてくる。
「お客だよ~」
 妹の朱音がのんびりした声を上げて訪問者の到来を告げる。
「客間に通してあげて」
 白雲が朱音に答える。
 訪問者を迎えるために妖怪たちが人間の姿になる。
 黄月は実年齢が100歳を超えているけれど、ワイシャツを着た20代の男性になる。
 白雲は、着ている和服はそのままで短髪の青年に変身する。
 文友は小学生ぐらいの子供に変身した。
 ナツは部屋にある鏡で失礼のないように服を正す。
 鏡に映ったナツの見た目は20代だが、実年齢と雰囲気は10歳上乗せされる。
「性格なんてものはなあ、どうにでもなるんだよ」
 部屋から出ていく黄月が荒っぽく言う。

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