第41話

文字数 744文字

 「終わっちった?」
 膝までしかない小さな狸が歩いてきた。
 「ああ、手間暇かからなかったぜ」
 ナツの代わりに黄月が答えた。
 霊力の網にからまった狒々は観念しておとなしくしている。
 「石を回収してきたぜ」
 狒々が封印されていたという塚にあった石を文友が差し出す。
 倉多の友人が持っていたというが文友たちはどうにかして回収してきたようだ。
 ナツは石を受け取り、それを手に持つ。
 本の力で、迷い狒々を石に封印する。
 「これで封印された。もう暴れることはない」
 ナツがやってきた倉多と佐久間教師に言うと、二人は安心したようだ。
 「まあ、封印が解けても、また俺たちが追いかけてとっちめるぜ」
 黄月が自信満々に話す。
 佐久間教師が倉多に話しかける。
 「人の生き方はそれぞれだ。誰かに押し付けられるものではない」
 「押し付けられないならどうするんですか?」
 「自分で選ぶものだ」
 倉多は驚いて目を見開く。
 ナツたちは二人の会話を遠巻きに見守っていた。
 高校生とは言え生き方を選ぶのは難しい。
 「人格者として良いことをするのが選んだ生き方なら。私は言うことはない」
 佐久間教師は倉多を優しく見下ろしている。
 倉多は目に見えて迷っている。
 「選べない。でも選ばないと」
 「長い人生だ。選べなくても――自分の人格の生き方になっていくものだ」
 すぐには選べない、でもいつかは決めないといけないときが来る。
 それも含めて難しいとナツは思う。
 倉多が佐久間教師を見る。
 「先生のように?」
 「そうだな。魅力的だろ?」
 ナツたちは“魅力的”という言葉に反応して互いに視線を交わす。
 「いいんだ。答え方も色々だ」
 どうやら、二人の会話は済んだようだ。
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