第38話

文字数 674文字

 すでに辺りは暗くなっている。
 目的の家は二階建てで、狭い庭があって、庭の木が育ち過ぎて塀からはみ出している。
 家の中で何らかの獣が暴れている音が聞こえてくる。
 声だけ聴くと姿が見えない獣のようだ。
 暴れる音がひどすぎて目的の一軒家が壊れそうだ。
 中で何かが壊れる音が聞こえてくる。
 状況は切迫している。
 ナツが見る限り、家の周りに野次馬はいない。
 だが、すぐに人が集まるにちがいない。
 「当たりだねえ」
 「当たりには違いねえが、景品は期待できねえな」
 状況の割には黄月と白雲は緊張していない。
 黄月は戦う相手がいるので血が騒いでいるのだろう。
 倉多の仲間の家にも護衛を付けておけば良かった、とナツは自分の至らなさを後悔する。
 「どうする?」
 「では、僕が試してみるよ」
 白雲が猫の鳴き声を上げる。
 ただの鳴き声でなく、妖怪的なものだ。
 「あれは化け猫どもが仲間に警戒を促す声だぜ。家の中で暴れている奴には妖怪の仲間が集まってくる、って聞こえるだろうよ」
 黄月が白雲の行動を解説してくれる。
 「つまり、迷い狒々が声の内容を理解したら、恐れて出てくることになるな」
 ナツが本の霊力を活性化させて剣を生み出す。
 「大雑把だが、あの鳴き声で犬や猿を警戒して追い払ったことがあるからな」
 闇夜の中で目立つ金色の体毛をさらしている黄月が手から爪を伸ばして家をうかがう。
 ナツと他の者たちもそれぞれ家のほうを警戒する。
 窓が割れる音がする。
 ナツたちが警戒している通りに大きな毛の塊のようなものが出てきた。
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