第25話

文字数 657文字

 森の外は太陽が差していて明るかった。
 ナツの背後にある森の暗さとはまさに明暗を分けている。
 太陽の日差しはやや強くてむき出しになった皮膚がすこし痛んでくる。
 人間の姿に戻った黄月がどこかを指さす。
 森の前は一本道が横切っていて、そこを真っ赤な車がやってくる。
 車種はわからないがスピードの出そうな車だ。
 車がナツたちの近くで止まり、運転手が出てきた。
 「失礼」
 運転していた女性が話しかけてきた。
 「この森に入っていたのか?」
 「神社のボランティアで森を掃除しています」
 ナツは適当に答えたが嘘ではない。
 神社巫女の杉野は妖怪たちに近隣の奉仕活動を行わせることがある。
 「かなりの重労働で企画した神社の奴を恨むことも」
 黄月が余計な恨みごとを言い出す。
 たぶん黄月が一番こき使われているにちがいない。
 女性は落ち着かない様子で長い黒髪を手でかき上げる。
 「ここに入っていく少年や少女は見なかったか?」
 「見ていませんが、何か気になることでも?」
 敬語は難しいな、とナツは思う。
 ナツが丁寧な言葉を使うたびに黄月が内心で苦笑しているのがわかる。
 黄月みたいなのと率直な言い合いをしていると礼儀作法なんてのは忘れてしまう。
 「子供たちを探している。というよりも、こういったところに入らないように注意している」
 女性の雰囲気がすこし柔らかくなった。
 「私は教師をしていて、子供たちを守るのが仕事なんだ」
 ナツたちは互いに視線を交わして、事態の深刻さを気にし始める。

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