第27話

文字数 595文字

 「それは肝試しで?」
 森の影のせいか体がすこし冷えてきてナツが腕をさする。
 「軽い気持ちだった」
 そう言って佐久間が天を仰ぐ。
 「熊には出会えました?」
 「いいや、会えなかったし、何も呪いみたいなものはなかった」
 佐久間はかぶりを振って話した。
 まあ、あの鬼熊の性格ならば、呪いなんて起こしそうにない。
 「学校で森に出る熊の噂が流行していて」
 佐久間が遠い記憶を探るように昔話を話している。
 「周りに流された」
 佐久間が話すのを止めて、ため息を吐く。
 「いい子であり続けたいと思っていたんだ」
 佐久間は過去の出来事を振り払うかのように頭を振った。
 「今は違うみたいだな」
 黄月が口の端を上げて笑う。
 「ああ、そうだ。結局、都合の良い性格を押し付けられていることに気付いて、言いなりになるのはやめたんだ」
 そのように言い切ってから佐久間が表情を正して、真剣な様子になった。
 「あの子、倉多も同じような目に遭っている」
 「倉多というと、少女と同じ名前だな」
 「倉多を知っているのか?」
 「最近、手伝ってもらっている」
 驚く佐久間にナツが誤魔化すために解説する。
 実際には佐久間が言っていたことと同じ件で相談を受けていたのだ。
 「そうか。見かけたら伝えてくれ“嫌なことなら無理してやる必要はない“とね」
 伝言を頼んだ佐久間は車で去っていった。
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