第18話

文字数 819文字

 倉多は、地元の高校に通っている高校1年生である。
 空手をしているが、気弱を直すためにやっているらしい。
 今までの人生で不可解な事件はなかったとのこと。
 今までは。
 「周囲でおかしなことがあって」
 「どんな?」
 「大きな毛むくじゃらの化け物が、藪から見ていたりして。暗くなったらそれが物陰にいたり」
 倉多は話す声に力が無く、心の底から怯えている。
 「大きさはどのぐらいだ?」
 白雲に代わってナツが声をかける。
 「熊よりも大きいぐらい。もっと大きいかも」
 倉多が両手の身振り大きさを示す。
 元の体が小さいためか、本当の大きさがわからない。
 成人男性の姿をしている黄月より大きいようだ。
 「熊はこのあたりにはいないからねえ」
 白雲が熊の可能性を明るい声で否定する。
 ナツは白雲の発言に肩をすくめる。
 「心当たりは?」
 ナツはさらに質問を重ねる。
 倉多は首を横に振る。
 「熊に知り合いはいる?」
 文友がおかしな質問をする。
 だが、妖怪の立場からは不思議ではない。
 倉多は今度も首を横に振って否定する。
 「飼っていたとかは?」
 「あるいは、熊に恨まれるとか」
 ナツと文友が質問をするが、やっぱり倉多は心当たりがないらしい。
 「とりあえず、熊から離れたほうがいいかもしれないねえ」
 白雲が会話の流れを変えるためにのんびりと横やりを入れる。
 「他の動物の可能性もあるかもな」
 黄月が他の可能性を示唆する。
 倉多が否定する。
 「大きかったし見間違いはないはずです」
 彼女はあくまでも熊の可能性を貫くつもりのようだ。
 「妖怪に恨まれる覚えはないか?」
 ナツが核心を突く質問をする。
 まだ妖怪の正体をばらすわけにはいかないのでこの質問を控えていたのだ。
 倉多は少しの間、黙っていた。
 「ない、と思います」
 彼女の視線は下を向いたままである。
 どうやら彼女は訳ありのようだ。

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