第62話 精霊ジンの能力

文字数 2,878文字

 ベスと対峙していたシャイラは、彼女の出方を窺う為、攻撃を仕掛けずに睨み合っていたのだ。

 先程、双子達と戦っているのを観ていたために、どうすれば相手に傷を負わせれるのか思案していた。


(厄介な相手ね……)


 彼女はそう考えると近付けば、つむじ風になって弾かれたり上空に持ち上げられて落下の憂き目に遭い、離れても風の刃で遠距離攻撃をしてくるので防戦一方になるのである。

 しかし、そんなことを考えているとベスが話しかけてきたのだ。


「攻めてこないのですか?」

「……」


 その挑発とも取れる言葉に対してシャイラは受け流していた。


「貴女が来ないなら、こっちから行きますよ?」


 ベスはそう挑発しながら間合いを詰めてきたのである。


(やっぱり来たわね……!)


 彼女は攻撃に備えて身構えていたら、ベスの姿が風となり消えて行ったのだ。そして、気が付くと彼女はシャイラの背後に立っていたのである。


「!?」


 シャイラは突然、背後に現れたベスに驚きの声を上げる間もなく、背中に鋭い痛みを感じていたのである。

 どうやら、背後から風の刃を放っていたのだ。


「あ……あああ……!」


 彼女は激痛に声が出なかったが、それでも気力を振り絞り、振り向き様にラミアの鋭い爪で引き裂こうとしたのだ。


「クッ!」


 ベスは後方に飛び退いて躱した。そして、一旦距離を取ると彼女は話しかけてきたのである。


「このまま貴女が出血死するまで、その身体に無数の傷を付けてあげますよ?」


 すると、シャイラに無数の風の刃を飛ばしていった。

 彼女は避ける暇もなく、その攻撃をまともに受けてしまった。


「キャアアアアア!!」


 彼女の叫び声と共に身体中が切り刻まれ鮮血が噴き出し地面に倒れていった。それを見たベスは勝利を確信したかのように呟いていた。


「やはり、口だけでしたね……」


 その時であった。ベスの上空と後方からいきなり、双子達が襲い掛かって来たのである。


(まだ、動けるのですか!?)


 ベスは驚きながらも上空から迫るニアと後方から迫るミラに対して、つむじ風になって前方に逃げていった。

 そして、2人の攻撃を躱すと、後方に下がり距離をとったのだ。

 双子はベスに話し掛けていた。


「シャイラを傷つけたこと後悔させてあげる……」

「私達を怒らせたことを後悔させてやるわ」


 2人は怒りの籠った目でベスを見つめていたのである。

 そして、彼女達はベスに攻撃を仕掛けようとしていた。それを見たベスは彼女に話し掛けてきたのだ。


「どうやら、まだ諦めていないようですね?」


 すると、ニアとミラが同時に彼女に攻撃をしかけようとした時、ベスは風になり上空に舞い上がると彼女達の頭上から風の刃を放ってきたのだ。


「何!?」


 双子達はその攻撃を交わすと後方の木の後ろに隠れ躱した。そして、ニアがベスに向かって叫んでいたのである。


「卑怯よ!」


 すると、ベスもニアに向かって叫び返していた。


「戦いで卑怯もへったくれもありません!」


 しかし、ニアはベスに向かって何か叫んでいた。


「そんな卑怯な戦い方じゃあ、性根が腐っていて男にモテないわ! 貴女処女でしょ!」


 それを聞いたベスは激しく動揺していた。


「な……何で、貴女がそんなことを……」


 ニアはそれを聞き逃さなかった。そして、ここぞとばかりに追い討ちをかけていた。


「やっぱり処女だったのね! そんな性格じゃあ、男は振り向かないわ!! それとも何? 男にモテたいの? 処女のくせに!!」


 ベスは怒りで歯軋りしていた。


(こいつ! 言わせておけば!!)


 そして、ニアに向かって叫んだのである。


「私を怒らせたこと後悔させてやるわ!」


 そんなやり取りを遠目で見ていたミラは彼女を怒り狂わせれば、大きな隙が生まれるのではと考えていたのだ。

 そして、ニアにその旨を伝えると2人でベスを挑発したのだ。


「私達は処女じゃないわよ?」

「そうよ! 経験済みよ!」


 それを聞いた途端、彼女はワナワナと身体を震わせ怒りに我を忘れていたのである。


(ふ……ふざけないで!)


「どいつもこいつも私をバカにして……」


 そして、怒りで我を忘れたベスは冷静さを失いながら、風となり上空に舞い上がって彼女達の方向に急降下し風の刃を飛ばしていったのだ。


「死ねぇぇぇ!!」


 2人の頭上から無数の風の刃が降り注いでいったのである。


「クッ!」


 双子達はそれを辛うじて転がりながら躱していた。そして、2人はベスに向かって叫んだのだ。


「そんな攻撃じゃあ、私達には当たらないわよ! 欲求不満でイライラしているのかしら? 」

「欲求不満のヒステリック女は嫌われるわよ!!」


 2人の罵りを聞いたベスは怒りに我を忘れ地上に降り立ち、人間の姿に戻っていったのだ。

 そして、双子達に向かって叫んだのである。


「もう容赦はしないわ! この尻軽女が!!」


 2人はベスが姿を現し怒り狂っているのを見てほくそ笑んでいた。


「かかったわね……」

「馬鹿を見る……とはこのことね」


 そんな彼女達の行動にベスは驚きつつも慌てていたのだった。


(接近戦に持ち込まれる!)


 ベスがそう考えた時、ニアは彼女に挑発しだした。


「怖じ気付いたのかしら? あんたが私達を倒せると思っているの?」


 しかし、ベスは冷静さを取り戻していたのである。そして、笑みを浮かべていたのだ。


「ふふふ、もう私を挑発しても無駄ですよ?」


 ニアはベスが冷静になっているのを見て歯軋りしていた。そして、悔しそうに呟いていた。


「まずいわ……冷静になってしまった……」


 そんな彼女達のやり取りを聞いていたミラは呆れていたがベスの背後を見て目を釘付けにしていた。


(シャイラが動いてる!)


 ミラはベスの背後にいるシャイラに気付いたのだ。しかし、ベスは彼女の存在に気付いていないようだ。


「もう貴女達に惑わされません!」


 ベスがそう叫んだ時であった。突然、シャイラの尾の薙ぎ払いを受けて吹き飛ばされていったのだ。


「キャアア!!」


 尾の薙ぎ払いを受けた彼女は、そのまま地面を激しく転がっていき動かなくなってしまったのである。そして、ミラはシャイラに近付き話し掛けたのだ。


「後は私がやるから、貴方は休んでいて」


 シャイラは頷き返していた。そして、ミラはベスの元に歩いて行ったのである。


「くっ!」


 ベスは立ち上がろうとしていたが中々身体が思うように動かなかったのだ。

 そんな時、ミラが囁きかけてきたのだ。


「貴女の負けよ……」


 それを聞いたベスは悔しそうな表情をしていた。


「貴方達も卑怯な手段を使うなんて……」


 そんな彼女の耳元でミラが囁いたのだ。


「戦いに卑怯もへったくれもないって言ったのは誰かしら?」


 そして、ベスの首元に牙を突き立てたのだ。


「な……何を……?」


 ベスは驚きを隠せなかった。そんな、彼女にミラが話し掛けた。


「貴女の血を貰うわよ」


 それを聞くとベスは慌てていた。


「や……止めて!!」


 そんな叫びを無視し、ミラはベスの血を啜りだしたのだ。

 ベスは抵抗しようとしたが、身体に力が入らず思うように動けなかったのだ。そして、次第に意識が遠退いていったのであった。
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