第60話 新たな力の覚醒

文字数 2,700文字

 アニウスは勝利を確信して突っ込んできていた。しかし、俺は先程の現象を思い出していたのだ。

(あのイメージは相手が行動に移る前に、その後の動きを予測することが出来るのか……?)

 そう考えた瞬間、俺の頭にはアニウスが攻撃してくる剣の軌道のイメージが浮かんだのだ。


「死ね!!」


 彼は叫びながら俺に向かって刀身が届かぬ距離から剣を振り下ろしてきたのである。その瞬間、俺の頭には彼の剣の軌道が描かれていたのだ。

(ここか!!)

 俺は剣を振り下ろしてくる軌道を予知して、上手く避けたのである。


「何!?」


 彼は驚きの声を上げていた。俺は攻撃をかわされた事に動揺している彼を逃さなかったのだ。

(今が絶好の機会だ!)

 そう思って彼の懐に飛び込むと、剣を彼の右脇腹に振るったのである。


「グハッ!」


 彼は致命傷を避けるため、切り裂かれながらも後ろに飛び退いていた。

 右脇腹からは出血しており、顔を歪めながら傷を左手で押さえていたのである。


「くっ……! 貴様ぁ!!」


 そんな状態でも俺を睨んでいると、後ろからオトフリートの声が聞こえてきた。


「兄貴! 大丈夫か!?」

「大丈夫だ! お前は手を出すな!!」


 彼は弟に向かって叫ぶと、再び俺に剣を構えて突っ込んできた。

(まだ動けるのか……?)

 俺が驚いていると、彼は叫びながら剣を振ってきた。先程よりも威力はないが青いオーラの輝きは衰えていなかったのだ。そして、俺の脳裏には攻撃を予知するイメージが浮かんでいたのである。

(次は右斜め上から斬り下ろしてくる……!)

 俺はその攻撃の軌道を予測して、紙一重で避けたのだ。すると、予想外だったのか、驚いている表情が見えていた。


「馬鹿な!!」


(次は横薙ぎに斬り払ってくる……!)

 俺が予知した通りにアニウスは剣を振っていた。俺は後ろに下がりながら避けると、彼の懐に入っていたのである。そして、俺は剣を下から振り上げて斬りつけたのだ。


「グッ!」


 彼は反射的に左手で防御しようとしたが、俺の剣が振り抜かれていたのである。彼の左手首は切断されており、傷口からは血が吹き出していた。


「ウガアァァァァ!!」


 アニウスは痛みと怒りで絶叫して、苦痛に耐えながらも俺を睨んでいたのだ。


「き……貴様……!」


 そんな状態でも彼は戦意を失っていなかったのである。


「クソッ!! オトフリートよ! 手を貸してくれ!!」


 すると、オトフリートが笑いながら答えたのだ。


「兄貴! 手は貸さねぇよ!」

「なっ!? お……お前は裏切るのか!?」


 アニウスは信じられないと言った表情で彼を見ていたのだ。そんな彼を無視してオトフリートは俺に向かって話し掛けてきたのだ。


「流石だな……! 兄貴をここまで追い詰めるとはな!」


 彼は愉快そうに笑っていると、アニウスが叫んだのだ。


「オトフリート! 見捨てるのか!?」


 だが、彼は笑い続けていたのだ。


「ガハハハ!! そんな状態で勝てる訳ねぇだろうが!」


 すると、アニウスは歯軋りをして悔しがっていたのである。そして、オトフリートに向かって叫んでいたのだ。


「お前……絶対に許さんぞ!!」

「おい! お前! 兄貴に引導を渡してやれ!」


 オトフリートは笑いながら俺に向かって話し掛けてきた。彼はアニウスに加勢すると思っていたのだが、まさかの裏切りであったのだ。

(何を考えているんだ……?)

 俺が怪訝そうな表情で思っていると、オトフリートはアニウスを指差して叫んでいたのだ。


「兄貴! そいつが始末してくれるってよ!」


 その言葉にアニウスは怒りの表情を露わにした。そして、右手で持った剣を振り上げながら俺に襲いかかってきたのである。

(そろそろ、こいつを仕留めるか……)

 俺はそう判断すると、彼に向かって剣を構えていた。そして、奴が攻撃を仕掛けてきた瞬間を狙っていたのである。


「死ねぇええ!!」


(ここだ!!)

 彼の剣の軌道が読め、紙一重で躱しながら素早く後ろに回り込み背中を切り裂いていたのである。


「グッ!!」


 彼は背中の痛みで顔を歪めて、振り返ろうとしたのだが、かかさず剣で彼の首を切り裂いたのだ。


「ガハッ……!」


 アニウスは首から血を吹き出しながら地面に倒れていたのである。それを見ていたオトフリートは感嘆していたのだ。


「流石だ!!」


 そんな状態でもアニウスは蹲りながら俺を睨み付け、口から血が噴き出している状態で口を開いたのだ。


「お……おのれ……!」

「兄貴! もういいだろ?」


 そんな彼の言葉を無視して、オトフリートは話し掛けていたのだ。


「見苦しいぞ! もう諦めろよ!」


 オトフリートは蹲っている兄に近付くと、見下しながら話し掛けていた。


「もう、長くは持たないだろ? そろそろ楽になったらどうだ?」


 その言葉にアニウスは憎悪の表情を浮かべて睨んでいた。そして、口から血を吐き出しながら口を開いていたのだ。


「……く……そ……」


 そんな兄を無視して、彼は笑いながら話し掛けていたのだ。


「俺が兄貴を楽にしてやるよ!」

「や……や……めろ……!」


 アニウスは彼に向かって手を伸ばしていたのだが、オトフリートは無視して背中から大剣を取り出してた。そして、剣を兄の首に振り下ろして切り落としたのだ。首を失った胴体からは血が噴き出して地面を真っ赤に染めていた。


「地獄で待ってるぜ……」


 彼は呟きながら言うと、大剣を構え俺に向かって話し掛けてきたのだ。


「待たせたな! 続きをやろうぜ!!」


 俺は剣を構えながら、オトフリートに話し掛けたのである。


「何故、兄を殺したんだ?」


 彼は俺の質問に笑って答えていた。


「もう役立たずだからな!」


 その発言に俺は不快感を抱いたのだ。

(この男は殺戮狂か……? それか何も考えていないのか……?)

 そう思いながらも、奴を倒すことだけ考えていたのだ。すると、彼は笑いながら話し掛けてきたのである。


「それじゃ始めようぜ!」


 そして、彼は大剣を構えて向かってきた。俺も剣を構えて迎え撃ったのだった。


 ラドリックがアニウスと死闘を繰り広げていた頃、シャイラは彼等とは少し離れた所でオッツと対峙していた。

 互いに睨み合っていると、オッツが話し掛けてきたのだ。


「俺を蔑ろにした報いを受けてもらうぞ!」


 そう言いながら彼は腰に差したロングソードを抜くと、一気に間合いを詰めて斬りかかってきたのである。

 それをシャイラは躱そうとしたのだが、オッツは剣の軌道を変えてシャイラに斬りかかってきたのだ。


「チッ!」


 彼女は舌打ちをしながら、仕方なく後方に飛び退いたのである。しかし、飛び退いた先に人の気配を感じ、振り向くと、もう1人のオッツが迫って来たのであった。
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