第61話 卑怯な騎士団長

文字数 2,759文字

 彼女は2人のオッツに囲まれてしまい、逃げ場を失ってしまったのだ。

 2人のオッツは彼女を挟むと最初にいた方が声をかけてきた。


「もう逃げ場はないぞ!」


 そして、後から現れたオッツが笑いながら叫んだ。


「完全を期して本体と分身で挟み撃ちということだ!」


 シャイラは2人を睨みながら話し掛けた。


「本当に面倒臭いことになったね……」


 彼女は溜息を吐きながら、身構えたのだ。そして、2人のオッツに向かって話し掛けたのである。


「私1人に対して卑怯じゃない?」


 すると、前方のオッツが笑いながら答えてきた。


「卑怯? そんなの関係ない! お前はここで死ぬんだからな!」


 そして、彼はシャイラに斬りかかってきたのである。彼女はその斬撃を紙一重で躱すと、後ろからも攻撃が来たのであった。

(しまった……!)

 2人のオッツが攻撃してきた事で、彼女は防戦一方になってしまっていたのだ。そして、徐々に追い詰められていたのである。


「ほら! もっと踊れ!」


 前方のオッツは笑いながら剣を振るっていた。

(このままでは不味いわね……)

 そう考えながらも、シャイラは反撃する機会を窺っていたのである。

 しかし、段々と2人による攻撃で切り傷が増えていった。彼等によって囲まれていることで苛立ちと焦りがでていたのだ。

(ラミアに変身しないと……。このままでは……)

 彼女はラミアに変身して巻き返そうと考えていたのだ。しかし、タイミングが掴めずにいたのである。

 だが、いつまでも考えている暇はなかった。このままでは自分が不利なのは明らかだったからだ。


「そろそろ、終わりだ!」


 2人のオッツは同時にシャイラに向かって斬りかかった。

(今よ!)

 彼女は瞬時に、2本の剣が交差したところを一気に掻い潜って前方のオッツに体当たりしたのである。


「グッ!」


 彼はその衝撃により、後ろに仰け反っていた。シャイラはその瞬間を見逃さなかったのである。

 瞬時にラミアに変身すると、1人に太い尻尾で強力な薙ぎ払いを放ったのだ。


「ぐわぁぁぁ!!」


 彼は血反吐を吐きながら吹き飛ばされていった。そして、木に激突して地面に倒れていたのである。

 どうやら失神したのは分身の方であったようだ。


「き……貴様ぁ!」


 本体のオッツは彼女に反撃しようと斬りかかった。だが、彼女は直ぐに反応して、尾で剣を弾くと、強烈な突きを顔面に叩き込んだのだ。


「ブハッ……!」


 彼は殴られて地面を転がっていった。そして、追撃のチャンスだと考えたシャイラは近付いて尾で彼を締め上げた。


「グッ……! 離せ……!」


 オッツは抵抗していたが、彼女は更に力を強めて締め付けた。

 骨がボキボキと折れていく音が聞こえ、肋骨と胸骨が砕けて内臓と肺に突き刺さり食道から血が込み上げ吐血していたのだ。


「グハッ!」

「これで終わりよ!」


 シャイラが止めを刺そうとした瞬間、彼女の背に激痛が走った。どうやら後ろから剣で斬られたようだ。そして、彼女は後ろを振り向いたのである。

 そこには、気を失ったはずの分身のオッツが立っていたのだが、その姿は弱々しくて顔色が悪く瀕死の状態であった。


「ハ……ハハ……! お前共々、一緒に死んでもらうぞ……!」


 彼は力なく笑いながらも剣で彼女の首を薙ぎ払おうとしていたのである。

 しかし、斬られたと思った途端、剣は浅く切りつけた所で止まっていたのである。

 シャイラは状況を判断すると、剣で襲い掛かったオッツは崩れ落ちていた。

 よく見ると、尾で締め上げていた方のオッツは事切れていたのである。

 どうやら、本体の方が死んで分身の方も死に体が消えかかっていた。

 シャイラはそれを確認すると、死んだオッツに話しかけていた。


「詰めが甘いわね……」


 彼女は溜息を吐きつつも尾で締め上げていたオッツを解放したのである。

 解放されたオッツの死に顔は目を見開き口を開けた状態で苦悶の表情をしていたのだ。

 彼女はそんな彼を見て呟いていた。


「自業自得よ……」


 そして、彼女は浅く付いた首の傷を気にしながら、離れた所で対峙しているラドリックとオトフリートを目撃していた。

 彼ら2人の間の張りつめた雰囲気に圧倒され彼女は侵してはならない只ならぬものを感じたのだ。

 雰囲気を読んで、この場を離れ双子達が戦っている現場へと向かうのだった。


 ラドリックやシャイラが騎士達と戦っていた頃、双子達はサービラの女性配下であるベスと激しい攻防を繰り広げていた。

 双子達がベスに距離を詰めようとするが、ベスの姿が霧状からつむじ風になり彼女達を寄せ付けないでいたのだ。


「クッ……!」


 双子の姉のミラはベスを攻めあぐねていた。どうやって攻撃すればいいのか分からなかったのである。

(どこを攻撃すれば……?)

 そう考えていた時、妹のニアが彼女に話しかけてきたのである。


「私が仕掛けてみるわ!」


 そう言うとニアはベスに向かって突撃していった。しかし、つむじ風に彼女が近付いた瞬間、突風に弾かれるように吹き飛ばされていった。


「キャア!」


 ニアは地面に叩き付けられ暫く痛みで動くことが出来ず、苦痛で顔が歪んでいたのである。

 それを見たミラは助けに行こうと走り出したが、ニアの周りにつむじ風が巻き起こり行く手を塞がれてしまった。まるで彼女を近づけさせないようにしているようだ。


「どうすればいいの?」


 彼女はこの状況に焦りを感じ始めていたのだ。


「ミラ! 危ない!」


 ニアが叫ぶと、つむじ風から鋭い風の刃がミラに向かって飛んできた。彼女はそれを間一髪で躱していた。だが、その隙につむじ風が彼女を包み込み一気に上空に持ち上げられてしまったのである。


「キャアアアアア!!」


 彼女は持ち上げられながら悲鳴を上げていたが、突如動きが止まり落下すると地面に激しく叩き付けられたのだ。


「グフッ……!」


 ミラは地面に倒れて悶絶していた。そして、それを見たニアは怒りが込み上げてきたのだ。


「許さない!」


 ニアは立ち上がり、再びベスに向かって走り出したのである。

 ベスは向かってくるニアに対して、つむじ風でミラと同様に上空に持ち上げていたのだ。そして、高く持ち上げると地面に落下させていった。


「ウグッ!」


 ニアも苦痛で顔を歪め悶絶していた。ベスが止めを刺そうと考えた時であった。

 彼女は一旦、人間の姿に戻り、ニアに止めを刺そうと近づいて行ったのである。

 そこに突如、後ろから声が聞こえて来たのである。


「待ちなさい!」


 ベスは声のした方に振り向くと見知っている女性が立っていたのである。

 双子達の戦いを目にして、シャイラがやって来たのだ。そして、彼女はベスに話し掛けていた。


「貴女は私が倒す!」


 ベスは少し考えた後、彼女に言葉を返したのである。


「……やってみなさい」


 2人は睨み合っていたのだった……。
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