第52話 魔女の使い魔

文字数 2,698文字

 サービラとベスは階段を上がって行くと、応接室に入って行った。そして、オトフリートがソファーに腰掛けて待っていたのである。

「だいぶ待った?」
「少しな」

 サービラが聞くと、彼は頷いていた。そして、ベスに命令してお茶を持ってこさせたのだ。そしてベスは部屋を退室した。
 彼女はソファーに座りながらベスが持ってきたお茶を受け取ると、一口飲んでから話し始めたのだ。

「あの娘は、どうやら魔女の配下になって日が浅いみたい……」
「そうか……。それで、あの魔女の事は何か分かったのか?」

 オトフリートがそう聞くと、サービラは首を縦に振っていた。

「魔女の名前や、配下達の能力を知ることが出来たわ」
「ふむ……」

 彼はそう呟くと、彼女の言葉を静かに聞いていた。そして、彼女は話を続けていったのだ。

「まず、魔女の名前はランシーヌ……。配下は4人で、男の方はラドリックといって能力は不明よ。双子の方は姉が吸血鬼、妹の方は屍食鬼らしいわ。あの娘はラミアの能力を持っている……」

 サービラがそう説明すると、彼はニヤリと笑っていた。

「なるほど……。魔女と配下達……。心得ておこう……」

 オトフリートはそう呟くと、お茶を飲んでいたのだ。そして、ふと窓の方を見てみると木の枝の所に黒猫が座っていてジッとオトフリート達を見ていたのだ。
 彼はそれに気付き、ジッと見ていたのだが黒猫もジッと見つめ返していたのだ。

「ふむ……、あの猫に憶えはあるか?」

 彼がそう聞くと、サービラは首を横に振っていたのだ。

「知らないわ……」

 彼女はそう答えると、オトフリートは考え込んでいた。
(あの猫は、ただの猫では無い気がする……)
 彼はそう思うと、窓に近付き窓を開けたのだった。

「あら? どうしたの?」

 サービラが不思議そうに聞くと、オトフリートは窓の外にいる黒猫を見ながら口を開いたのだ。

「あの猫……、俺達を見張っているぞ……」

 彼がそう答えるや否や、とんでもない速さで黒猫は窓から部屋に飛び込んで行ったのだ。

「えっ!?」

 彼女が驚いていると、黒猫はオトフリートの懐に飛び込んでいた。そして、そのまま彼の喉元に噛み付こうとしていたのだ。

「くっ!」

 オトフリートは慌てて回避しようとしたが、咄嵯の判断だったため完全に間に合わなかったのだ。彼は間一髪で喉元を躱したが、左頬に傷ができていた。

「お前……、ただの猫ではないな?」

 彼が鋭い目つきで睨みながら聞くと、黒猫はニヤリと笑いながら彼の首を噛もうと飛びついてきたのだ。
 しかし、後ろに飛び退き回避していた。そして、彼は剣を抜いて構えていたのだった。

「サービラ……、お前も気をつけろ!」

 オトフリートがそう叫ぶと、サービラも身構えていた。

「分かっているわ!」

 彼女はそう言うと、黒猫を睨み付けていた。すると、扉からアニウスとオッツが入って来たのである。

「おい、どうした?」

 アニウスが部屋にいる黒猫を見て不思議そうに聞くと、オトフリートは警戒しながら答えた。

「この黒猫……、普通の猫ではないぞ!」

 彼がそう言うと、アニウスとオッツも即座に剣を抜いて構えていた。
 そして、黒猫も威嚇しながらオトフリート達を睨んでいた。

「ふふっ……、やっと集まったわね……」

 黒猫は女性の声で喋ると、口元を歪めていた。そんな様子を見て、サービラが驚いていたのだ。

「貴女……、ランシーヌ?」

 サービラがそう聞くと、黒猫は笑いながら頷いていた。

「そう……、私は魔女ランシーヌ……。貴方達の事は知っているわ……」

 黒猫がそう答えると、オトフリート達は身構えながら睨んでいたのだ。

「よく、ここがわかったな……」

 オトフリートがそう言うと、黒猫はニヤリと笑いながら答えたのだ。

「当然よ、魔女の気配は憶えたわ……。それを辿って来ただけよ」

 黒猫はそう答えると、オトフリート達は警戒しながら剣を構えていた。そして、彼女は口を開いたのである。

「さて……、貴方達に選択肢を与えるわ……。ここで死ぬか、降伏するか選びなさい……」

 そう言うと、オトフリートは鼻で笑っていたのだ。

「ふんっ……、死ぬだと? 笑わせるな! お前こそ降伏しろ!」

 オトフリートがそう叫ぶと、黒猫は笑い始めたのだ。そして、彼等を嘲笑しながら答えたのである。

「面白い事を言うわね……。ならば、地獄を見ることね……」

 ランシーヌの声で言うと、黒猫の姿が歪み始めたのである。そして、徐々に大きくなっていったのだ。それを見たオトフリート達は警戒しながら剣を構えていた。

「皆、気を付けて! 変身するわ!」

 サービラはそう言いながら、黒猫の姿は完全に変容して異形の怪物へと変わっていたのだ。
 その姿は猫の姿からは想像もつかない黒い獣毛で覆われた大きな4足歩行の黒獣であった。

「ちっ……、変身したか……」

 オトフリートは舌打ちをしながら呟いていたのだ。そして、サービラが叫んだのである。

「皆、行くわよ!」

 サービラの掛け声と共に、オトフリート達は一斉に突撃していったのだ。しかし、黒獣は素早い動きで彼らを翻弄し攻撃を交わしていったのである。そして、飛び掛かり爪で切り裂こうとしてきたのだった。その間、サービラは集中して床を見詰めながら何やら呪文を唱えていたのだ。
 オトフリートが爪の攻撃を剣で防ぐと、黒獣は後ろに下がって距離を取ったのだ。

「やるわね……」

 獣がそう呟くと、オトフリートはニヤリと笑いながら答えたのである。

「当たり前だ」

 そして、今度はアニウスとオッツが同時に攻撃を仕掛けたのだが、黒獣は驚異的なスピードで回避していったのだ。

「ちっ……」

 アニウスが舌打ちすると、オッツが口を開いた。

「これでは埒が明かんな」

 彼は、そう言うと黒獣はクスクスと笑い始めた。そして、口を開いたのである。

「貴方達じゃ勝てないわ。大人しく降伏しなさい……」
「ふんっ……、お前の負けよ!」

 サービラがそう叫ぶと、獣はキョトンとした表情を浮かべていた。

「何を言っているの?」

 ランシーヌの声で不思議そうに言うと、サービラはニヤリと笑ったのである。

「用意できた! もうお終いよ!」

 サービラが叫ぶと同時に、部屋の床に魔法陣が展開されたのだった。

「これは……」

 黒獣が驚いていると、サービラは呪文を唱えて叫んだのだ。

「異界の鎖よ我が敵に絡みつき引き千切れ! 死になさい!」

 彼女がそう叫ぶと、黒獣の足下の床から無機質な鎖が飛び出して足を絡めとったのである。

「くっ……!」

 黒獣は必死にもがいていたのだが、鎖は外れなかった。そして、サービラが更に呪文を唱え魔法陣から新たな鎖が放たれ黒獣の首に巻き付いたのだった。
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