第57話 魅了された騎士団長

文字数 2,653文字

 オッツが床に寝転んで外そうと藻掻いている間にニアは彼の後頭部に向けて蹴りを食らわせたのだ。

「グォッ!」

 彼は一声を上げると気絶してしまい、うつ伏せになっていた。

「シャイラ! 大丈夫?」

 ニアは心配そうに駆け寄りながら話しかけたのだ。だが、彼女は辛そうにしながらも笑みを浮かべていたのである。

「ええ……、なんとか……」

 シャイラは弱々しく返事をすると、ゆっくりと顔を上げニアを見たのである。シャイラは全裸であるが目視する限り外傷はなかったのである。
 彼女はシャイラの前に立つと、もう片方の手から伸びている鎖を掴んだのだ。

「え?」

 彼女は突然の行動に驚いたが、ニアは力一杯引っ張り始めたのである。
 何度か引っ張ると、シャイラを拘束していた鎖は千切れしまったのだ。

「これでよし!」

 ニアが満足そうに言うと、シャイラは驚きと困惑の表情を浮かべていたのだ。

「……ありがとう」

 シャイラは戸惑いながらも、ニアに礼を言った。すると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
 ニアは、屋敷から女性の服を捜し出しシャイラに着せていた。
 そして、2人はオッツを担ぐと応接間に運んだのであった。
 応接間に入ると、オッツを椅子に縛りつけたのである。
 縛り付けた物は縄だけでなく自身を縛っていた鎖でも縛っていたのだ。
 彼女は不思議そうに鎖を見ていたのだ。

「この鎖は私達の能力を封印する能力があるの……。今度は、私がこいつに色々聞き出してやる」

 シャイラはニヤッと笑うと、オッツを見下ろしたのだ。

「……大丈夫なの?」

 ニアは心配そうに言うと、彼女は自信満々に答えていた。

「 尋問は私に任せて!」

 シャイラはそう言うと、オッツの頬を軽く叩いて起こそうとした。だが反応が全く無かったのである。

「ちょっと! 起きて!!」

 彼女は激しく揺すっていると、彼はゆっくりと目を開けた。そして、睨みつけながら尋ねていたのだ。

「貴様等! こんな事をしてただで済むと思うなよ!!」

 彼は怒りの形相で叫んでいた。だが、シャイラは怯えるどころか挑発的な笑みを浮かべていた。

「あら? 貴方が私にしたことの方が、ただでは済まされない事だと思うけど?」

 シャイラは冷たく言い放っていた。オッツは舌打ちをすると、彼女の手から逃れようと藻掻いたのである。だが、鎖の所為で逃げ出す事が出来なかったのである。
 彼は藻掻きながらシャイラを睨みつけていた。
 だが、彼女は気にした様子もなく話しかけたのだ。

「時間があまりないから、手短に質問するわ! お前の仲間の能力を喋って?」

 シャイラは真剣な眼差しで尋ねたのだが、彼は鼻で笑ったのである。

「誰が言うものか!」

 彼は自信たっぷりな表情で答えていた。しかし、彼女はニヤッと笑うと再び聞いたのだ。

「貴方……、自分の立場が分かってないみたいね?」
「何だと? 貴様こそ立場を弁えろ!!」

 彼は怒りの声を上げると、シャイラも挑発的な笑みを浮かべていた。

「じゃあ、私の目を見て……」

 彼女に言われてオッツは睨む様にシャイラの瞳を覗き込んだのだ。
 すると、オッツは突然目が虚ろになって焦点が合わなくなってしまったのである。そして、まるで催眠術に掛かったかのようにボーっとしていたのだ。
 そんな彼に彼女は囁くように呟いたのだ。

「貴方の仲間の能力を話して……」
「……はい。アニウスは武器等にオーラをのせて攻撃力を上げたり距離を延ばしたり出来る能力……。オトフリートは狂戦士になれる能力を……。ベスは守護者で異国の精霊ジンの能力を持っている……。」
「貴方の能力は?」
「……私の能力は分身を操り、何処にでも飛ばせることが出来る……。この体は分身の方だ……」

 シャイラの尋問に彼は淡々と答えていたのだ。その様子を見ていたニアは呆気に取られていたののである。

「凄い……」

 彼女はニアにドヤ顔でこう言ったのである。

「どう? 私の魅了」

 自慢気な彼女を見たニアは思わず笑ってしまったのだ。

「ふふ、流石ね!」

 ニアは嬉しそうに笑顔で答えたのだ。すると、シャイラは照れたのか少し赤くなっていたのだ。

「そ、そうかな……? 能力のお陰よ……。 えへへ……」

 シャイラは嬉しそうな表情を浮かべていた。そんな彼女を見てニアはクスクス笑っていたのである。
 そうこうしている内に、突然玄関の扉が開きランシーヌが入ってきたのだ。
 彼女は2人と縛られているオッツを見て驚いた表情になり、そして笑みを浮かべたのである。

「あら? 楽しそうな事してるわね?」

 2人はランシーヌの姿を見て驚きながら話しかけたのだ。

「ランシーヌ? どうしてここに?」
「あなた達が心配で戻って来たのよ。暫くしたらラドリック、ミラもやって来るわ」
「そうだったの……。ありがとう……」

 2人は彼女に感謝していた。オッツは虚ろな目でボーっとしていて椅子に座っていたのだ。
 そんな彼を見てランシーヌは笑いを堪えていたのである。

「ふふ……、結構上手くいったようね」

 ランシーヌが可笑しそうに笑っていると、扉が開きラドリックとミラが入ってきたのである。
 サービラ達がランシーヌを捜している時に、ラドリック達に彼女達を撒いて屋敷に戻る事を伝えていたのである。

「おお! シャイラが無事だったようだな」

 ラドリックが聞くと、彼女は苦笑いしながら答えていた。

「ええ……、なんとか……」

 彼女はそう答えると、オッツの姿を見たラドリックは顎に手を当てて感心していたのである。

「ほぉ~、流石だな! シャイラ」

 彼が嬉しそうに言うと、シャイラは恥ずかしそうな表情を浮かべていたのだ。

「そ、そんな事はないわ……」

 シャイラが照れていると、ミラがランシーヌに話し掛けたのである。

「それで? これからどうするの?」

 彼女が尋ねると、オッツを見てニヤリと笑ったのだ。

「こいつにはまだ用があるからね」

 そう言うと、ラドリック達に指示を出した。

「彼の体に貼る紙に、私が言う事を書いて頂戴……」

 ランシーヌの言葉に俺は頷いていた。そして、オッツの正面に立ち真摯な表情で見下ろしていた。
 ペンを持ってランシーヌが言った事を紙に書き始めたのである。書き終えると、紙をオッツの体に貼ったのだ。
 そして、書き終えた紙を見ると双子達、シャイラは困った様な顔をしていたのである。

「これで……本当にいいの?」

 シャイラが不安そうに聞くと、ランシーヌは笑顔で答えていた。

「ええ! これでいいのよ!」

 彼女は自信たっぷりに答えたのだ。そして、皆屋敷から出て行ったのである。
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