第32話 双子達対姉弟

文字数 2,254文字

 館の中庭では、俺とクレムの戦いが終わったのだが……。


「そんな!! 兄さん!!」


 アレシアは、目から涙を流して叫んでクレムの遺体に駆け寄っていた。


「まさか……、嘘よね!?」


 アレシアは、クレムの遺体に泣きながら縋りついていたのだ。

 それから、俺の体が首を回収するために俺の頭の傍に行った。

 俺は自分の体を下から見て愕然とした。首から上が無くなっていたからである。

(何て事だ……)

 その状況にショックを受けながら自分の頭を拾うと首に押し当て、元の位置に戻したのであった。

 俺は確認すると問題なく体は正常に動いていた。

 そして、俺はアレシアに近づいて行ったのである。


「アレシア……」


 俺が呼ぶと彼女は泣きながら、こっちを見た。


「どうして、生きているの?」


 彼女は、泣きながら信じられないという顔をしていた。

 その反応も無理はないだろう。俺だって、死んだと思っていたのだから……。

(これが、ランシーヌから貰った力なのか?)


「ああ……、俺にも良く分からない」


 俺は、頭を掻きながら返答した。自分でも何が起きたのかさっぱり分からないからだ。

 そんな俺の反応に彼女は俯いて、うなだれていたのである。


「……」


 そんなアレシアを見つめていると彼女は泣き止んで立ち上がり俺に向かって話し掛けてきたのである。


「私が兄の仇を討つ……」


 アレシアは、覚悟を決めていた。その目は真っ直ぐと俺を見ているのだ。

(これは、覚悟を決めた者の目だな……)

 俺は彼女を見てそう感じていたのである。

 覚悟を固めて彼女と向き合うことにしたのだ。


「君とも戦うことになるのか……」

「ええ!」


 彼女と睨み合っていたが、突然、アレシアが空中に向けて跳躍したのである。


「何!?」


 俺が、驚いていると彼女は空中に浮かんでいた。

 その姿は手が鳥のような羽になっていて下半身も鳥で足には鋭い鉤爪が生えていた。

 アレシアの変身した姿は伝説の魔物ハーピーであった。


「これが私の力よ!」


 ハーピーの姿になったアレシアは、俺に向かって飛び掛かってきたのである。

 俺は咄嗟に、剣で彼女の鉤爪を防いだが弾き返されてしまった。

(何て鋭い鉤爪なんだ……)

 何とか体勢を立て直して、彼女を迎え撃つ準備をしていた。

 しかし、彼女は俺の背後を取ると鉤爪の生えた足で俺を切り裂こうと迫って来ていたのであった。


 ラドリックがアレシアを迎え撃っていた頃、双子達と姉弟の戦いが、続いていた。


「姉さん、コイツ等どうやって殺っちゃう?」


 ダリルは、変身した蛇の頭部で舌をチロチロ出しながら、シャイラに聞いていた。


「そうね、簡単に死なないように、じっくりと締め付けて殺してやろうかしら」


 シャイラも蛇になった下半身をウネウネさせながら、笑顔で答えていた。


「じゃあ、僕は生きたまま丸呑みにしてやるよ!」


 2人の魔物は、楽しそうに会話をしていたのである。


「いい気にならないで!」


 ニアが姉弟に文句を言うと、ダリルは小馬鹿にしたような態度で返答してきた。


「僕達が、お前達などに負けるものか!!」


 そう言うと、ニアに向かって牙から毒を飛ばしたのである。

 それがニアの体に命中した途端、意識が朦朧となり体に力が入らなくなっていた。


「う、動けない……」


 ニアは、そのまま地面に崩れ落ちてしまった。


「この毒は麻痺の効果もあるから暫くの間、動けなくなるだろうさ!」


 ダリルは、苦しむニアを見ながら笑い始めた。


「う、うぅ……」


 ニアは、痺れて動けずに苦しんでいるとダリルの蛇になった口が大きく開かれていた。


「お前を食ってやる!」


 そして、大きな口でニアの頭部を丸呑みにしていき、そのまま体も呑み込んでしまったのである。

 その体は腹が大きく膨らんでいた。


「ああ!! ニア!!」


 ミラは妹が飲み込まれていくのを見て油断してしまったのである。


「油断大敵よ!」


 シャイラが、その隙を見逃さずにミラの体に尻尾を巻き付けてきた。


「きゃー!!」


 ミラは、体を締め付けられて苦痛な声を上げた。


「じわじわと締め付けて殺してやる!!」


 シャイラは、更に締め上げていったのである。

 ミラは、徐々に締め付けられて息をするのもやっとの状況になっていた。


「ぐ……苦しい……」


 彼女は苦悶の表情をしながら呻いた。


「どう? 苦しみながら死んでいくのは?」


 シャイラは、嘲るように言いながらミラを見ていた。


「く……、このままじゃ……」


 何とか抵抗しようとしたが肋骨が軋む音が聞こえてきて激痛が走った。


「ぐあ……!!」


 苦痛の声を上げながら顔を歪めていた。

(このままでは、全身の骨が砕かれて死ぬかもしれない……)

 ミラは、絶体絶命の危機に立たされていたのだ。

 そんな時、ダリルが腹を押さえて苦しみだしたのである。


「ぐげげっ!! これは!?」

「ダリル! どうしたの?」


 シャイラは、心配そうに弟を見ていたがミラへの締め付けは緩めていなかった。


「姉さん……。あいつが……僕の……腹の……中で……暴れている……」


 ダリルは、苦痛の声を上げながら悶え苦しんでいた。

(もしかして……。ニア!!)

 ミラは、ダリルの異常の原因がミラだと解り、妹が生きているのが判り安堵したのだが、このままでは自分も危ないと危機感を感じていた。

 ダリルの腹から突然、ニアの腕が突き破って出てきたのだ。

 そして、ニアはダリルの内臓を摑んで引き摺り出すと血塗れになりながら上半身を現した。


「うげえぇ!!」


 ダリルの断末魔が響き渡り口から血を吐き腹部から内臓と血飛沫が飛び散っていたのである。
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