第17話 エリノーラの最後
文字数 2,043文字
エリノーラは、地面を転がり仰向けに倒れていった。
「やったか!?」
俺はそう叫んだ。
しかし、倒れていたエリノーラは、朦朧としながらゆっくり起き上がると、こちらを向いて不気味に微笑んでいた。
その顔は半壊していて左目はなく眼窩が見え、左頬は吹き飛んで歯茎が見えている。
身体中に開いた穴からは今だ血が流れて、その傷から内臓がはみだし骨も見えていた。それでもエリノーラは立ち上がったのだ。
俺は、あまりの醜い姿に背筋がゾクリとした。
しかし、ランシーヌは彼女の再生能力が段々と落ちていることに気付いていたようだった。
「貴方……。もう限界みたいね……」
ランシーヌは冷たくそう言った。
エリノーラは、自分の姿を気にする様子もなく、ふらつき立ち上がりながら、
「……確かに……私は……もう……駄目かも……しれない……けど……お前達を……道連れに……して……やる……」
言葉も不明瞭に、そう言ってエリノーラは、弱々しく両手を空に向けた。
すると、上空の黒い球体が徐々に大きくなっていく。
俺は、この場を逃げようとランシーヌを促そうとしたが、
「大丈夫よ……。私に任せて……」
ランシーヌはそう言って、エリノーラに近づいて抱き締めたのであった。
ランシーヌは、エリノーラを優しく抱き締めると、耳元で囁いた。
「安心しなさい……。貴女はもう十分、戦ったわ……。貴女の代わりに私が魔女として戦うから……」
ランシーヌはそう言うと、エリノーラの頭を撫でた。
「……ああ……ユーザックの……ところに……いけるの……ね」
と言うと、エリノーラは穏やかな表情になり、力なく崩れ落ち息絶えた。
エリノーラの死により発動させた黒い球体は消滅していた。
ランシーヌは、エリノーラの亡骸をそっと地面に寝かせると、俺達の方へ振り返った。
その表情からは感情が読み取れない。
そして、ランシーヌは俺達の方を見てこう話した。
「エリノーラは魔女になる前の記憶があったらしいけど、私には無いのよ……。そして、彼女は過去に魔女狩りで処刑されていて私も昔、処刑されたのかも……。エリノーラと私の共通性は
そこかしらね……」
ランシーヌはそう言うと、寂しげな表情を浮かべて笑った。
「ランシーヌ……。君は一体何者なんだ?」
俺は、ランシーヌの正体が気になって、彼女に訊ねてみた。
「私にも分からないのよ……。でも、一つだけ確かなことがあるの……」
「それは?」
「私はね……。エルミス教が大嫌いだってことよ……」
ランシーヌはそう答えた後、俺の方に近付いてきた。
「さあ、帰りましょう……。今日はさすがに疲れたわ……」
「そうだね。帰ろう……」
「明日は身体を洗いたいわ……」
「そうね」
俺と双子達はそう答えると、皆と一緒に宿に帰ることにしたのである。
ランシーヌ達がエリノーラ達と戦っていた頃、ランシーヌがデムイの町の修道院を襲撃した後、修道院で殺された人達の遺体を町の兵士達が運び出していた。
兵士達は、遺体を馬車に乗せていくのだが、その中に兵士ではない人達がいた。
それは、町の人間ではなく修道女の恰好をした者達であり作業をしている兵士達に聞き込み情報を仕入れているようだった。
「どうです? 何か分かりましたか?」
1人の修道女が、責任者らしい中年の兵士に声をかけた。
「あぁ……。修道院で殺された者達の死因はバラバラになったり、血を吸われて出血死したり内臓を食われていたり……。その他、剣で切り殺されている者もいた。中々、凄惨な現場だった……」
「そんなに酷い状況だったのですか!? それで犯人の目星は付いたのでしょうか?」
「それが……。まだ分からないんだよ。目撃者が1人もいないから……」
「そうなんですか……」
「ただ……。気になることがあって……」
「なんでしょう?」
「これは噂なのだが……。この殺戮は魔物がやったのではないか……」
責任者の兵士は、周囲に自分達以外誰も居ないのを確認してから、小声でそう言った。
「まさか……。 いくらなんでも、それは無いですよ!」
修道女は大げさに相手の答えを否定した。
「そう思いたい気持ちも分かるが……。実際、現場を見れば人間の仕業とは思えない……」
「そうかもしれませんが……。我々も神に仕える身。信じるべきは神の導きのみ。例え、どんなことが起ころうと我々はその教えに従って行動するだけです」
「それもそうだな……。変なことを話して悪かったな」
そう話すと責任者の兵士は、現場に戻っていった。
修道女は、兵士が離れていったのを確認すると小さく溜息をついた。
「この修道院に魔女が来たのは間違いない……。しかし、もう気配が感じられない……。一体、何処に行ったのか……」
修道女はそう呟くと、仲間達の元へと移動していった。
彼女が修道服のフードを外すと20代半ばぐらいの銀髪の長い髪で、かなり綺麗な顔であった。
「今日中に、この町を発つわ。この町には、もう居ない……」
仲間達に、そう告げると彼女は先頭を歩いて行ったのである。
「やったか!?」
俺はそう叫んだ。
しかし、倒れていたエリノーラは、朦朧としながらゆっくり起き上がると、こちらを向いて不気味に微笑んでいた。
その顔は半壊していて左目はなく眼窩が見え、左頬は吹き飛んで歯茎が見えている。
身体中に開いた穴からは今だ血が流れて、その傷から内臓がはみだし骨も見えていた。それでもエリノーラは立ち上がったのだ。
俺は、あまりの醜い姿に背筋がゾクリとした。
しかし、ランシーヌは彼女の再生能力が段々と落ちていることに気付いていたようだった。
「貴方……。もう限界みたいね……」
ランシーヌは冷たくそう言った。
エリノーラは、自分の姿を気にする様子もなく、ふらつき立ち上がりながら、
「……確かに……私は……もう……駄目かも……しれない……けど……お前達を……道連れに……して……やる……」
言葉も不明瞭に、そう言ってエリノーラは、弱々しく両手を空に向けた。
すると、上空の黒い球体が徐々に大きくなっていく。
俺は、この場を逃げようとランシーヌを促そうとしたが、
「大丈夫よ……。私に任せて……」
ランシーヌはそう言って、エリノーラに近づいて抱き締めたのであった。
ランシーヌは、エリノーラを優しく抱き締めると、耳元で囁いた。
「安心しなさい……。貴女はもう十分、戦ったわ……。貴女の代わりに私が魔女として戦うから……」
ランシーヌはそう言うと、エリノーラの頭を撫でた。
「……ああ……ユーザックの……ところに……いけるの……ね」
と言うと、エリノーラは穏やかな表情になり、力なく崩れ落ち息絶えた。
エリノーラの死により発動させた黒い球体は消滅していた。
ランシーヌは、エリノーラの亡骸をそっと地面に寝かせると、俺達の方へ振り返った。
その表情からは感情が読み取れない。
そして、ランシーヌは俺達の方を見てこう話した。
「エリノーラは魔女になる前の記憶があったらしいけど、私には無いのよ……。そして、彼女は過去に魔女狩りで処刑されていて私も昔、処刑されたのかも……。エリノーラと私の共通性は
そこかしらね……」
ランシーヌはそう言うと、寂しげな表情を浮かべて笑った。
「ランシーヌ……。君は一体何者なんだ?」
俺は、ランシーヌの正体が気になって、彼女に訊ねてみた。
「私にも分からないのよ……。でも、一つだけ確かなことがあるの……」
「それは?」
「私はね……。エルミス教が大嫌いだってことよ……」
ランシーヌはそう答えた後、俺の方に近付いてきた。
「さあ、帰りましょう……。今日はさすがに疲れたわ……」
「そうだね。帰ろう……」
「明日は身体を洗いたいわ……」
「そうね」
俺と双子達はそう答えると、皆と一緒に宿に帰ることにしたのである。
ランシーヌ達がエリノーラ達と戦っていた頃、ランシーヌがデムイの町の修道院を襲撃した後、修道院で殺された人達の遺体を町の兵士達が運び出していた。
兵士達は、遺体を馬車に乗せていくのだが、その中に兵士ではない人達がいた。
それは、町の人間ではなく修道女の恰好をした者達であり作業をしている兵士達に聞き込み情報を仕入れているようだった。
「どうです? 何か分かりましたか?」
1人の修道女が、責任者らしい中年の兵士に声をかけた。
「あぁ……。修道院で殺された者達の死因はバラバラになったり、血を吸われて出血死したり内臓を食われていたり……。その他、剣で切り殺されている者もいた。中々、凄惨な現場だった……」
「そんなに酷い状況だったのですか!? それで犯人の目星は付いたのでしょうか?」
「それが……。まだ分からないんだよ。目撃者が1人もいないから……」
「そうなんですか……」
「ただ……。気になることがあって……」
「なんでしょう?」
「これは噂なのだが……。この殺戮は魔物がやったのではないか……」
責任者の兵士は、周囲に自分達以外誰も居ないのを確認してから、小声でそう言った。
「まさか……。 いくらなんでも、それは無いですよ!」
修道女は大げさに相手の答えを否定した。
「そう思いたい気持ちも分かるが……。実際、現場を見れば人間の仕業とは思えない……」
「そうかもしれませんが……。我々も神に仕える身。信じるべきは神の導きのみ。例え、どんなことが起ころうと我々はその教えに従って行動するだけです」
「それもそうだな……。変なことを話して悪かったな」
そう話すと責任者の兵士は、現場に戻っていった。
修道女は、兵士が離れていったのを確認すると小さく溜息をついた。
「この修道院に魔女が来たのは間違いない……。しかし、もう気配が感じられない……。一体、何処に行ったのか……」
修道女はそう呟くと、仲間達の元へと移動していった。
彼女が修道服のフードを外すと20代半ばぐらいの銀髪の長い髪で、かなり綺麗な顔であった。
「今日中に、この町を発つわ。この町には、もう居ない……」
仲間達に、そう告げると彼女は先頭を歩いて行ったのである。