第64話 魔女達の小手調べ

文字数 2,909文字

 ランシーヌがサービラに対して放った呪文は「霧の火悪魔」と言う呪文であった。この呪文は相手が吸い込むと喉や気管支、粘膜に覆われている眼に焼きつけるような痛みを与える魔法である。
 サービラがランシーヌに放った窒息の魔法に対して吸い込めば吸い込む程、苦痛を与える魔法であるのだ。

「霧の中に潜む火悪魔よ! 敵の喉を焼き尽くし、見悶えさせよ!」

 ランシーヌは魔法を放つと、サービラの周りにえんじ色の霧が覆いだしたのである。
 そして、霧に覆われるとサービラの喉に焼きつける痛みと眼に激痛が走り咳込んで涙が止まらなくなっていた。

「どう? 苦しいでしょう?」

 ランシーヌが残忍な笑みを浮かべながらそう言うと、サービラは咳込み続け、顔じゅうが涙と涎と鼻水で溢れ悶え苦しんでいた。

「ゲホッ……ゲホッ……ゲホッ! この卑怯者!!」

 サービラは憤怒の表情でランシーヌを怒鳴るが、彼女はそれを聞いて鼻で笑ったのだ。

「卑怯者? そうね……貴女だって窒息の魔法を使ったじゃない……。もう、お互いが苦しむだけの魔法を使うのは止めましょう」

 そう言うと、ランシーヌは霧の火悪魔を解除したのだった。そして、呪文が解けるとサービラの喉に焼きつける痛みと眼の激痛が消えていったのである。

「ゲホッ! ゲホッ……ゲホッ!」

 サービラは、まだ咳込みながらランシーヌを思い切り睨み付けながら答えたのだ。

「……どうやら、相手を破壊する魔法を使った方がいいみたいね」
「そう、好きにすればいいわ……。私は貴女を倒すだけだから……」

 ランシーヌはクスクスと笑いながらサービラの話を聞いていたのだった。
 そんな彼女に苛立ちを覚えながらサービラは呪文を唱えだしたのだ。

「業火よ! 炎の嵐と成りて我が敵に襲い掛かれ!」

 サービラが呪文を唱えると、彼女の頭上に炎の渦が出来上がり炎が巻き上がる。そして、炎は渦を巻きながらランシーヌに向かって行ったのである。
 しかし、それを見た彼女は冷たい眼差しで見ていたのだ。そして、炎の渦がランシーヌを飲み込むと炎が彼女を包み込んだのである。

(死ね!)

 サービラは彼女が消し炭になったと確信していた。しかし、炎の渦が消えた後にはランシーヌが平気な顔で立っていた。彼女は呆れた表情をしていたのだ。

「大したことないわね……」

 彼女はランシーヌの余裕ある表情に驚愕し、歯を食い縛りながら睨み付けていたのである。

「くっ!」

 そんなサービラに対してランシーヌはクスクスと笑っていた。

「じゃあ、お返しするわね……」

 そう言った瞬間、ランシーヌは、お返しの呪文を唱えていたのである。

「業火よ! 炎の嵐と成りて我が敵に襲い掛かれ!」

 サービラがランシーヌに放ったのと同じ魔法を唱え彼女の頭上に炎の渦が現れ、炎が巻き上がりサービラを包み込んだのだ。

「これで、お返しができたわね……」

 ランシーヌがそう言い終わった時には炎の渦は消えていた。そして、炎が消えた後にはサービラも平然として立っていたのである。

「そうよね……。私達は攻撃魔法を無意識で防御出来るから当然、無効よね……」

 彼女はサービラが平気な顔をしていたのを見ると、予想通りだったのでガッカリしていたのだ。

「私達は不死身で魔法攻撃も防御できるから、どうやって戦うの?」

 サービラはランシーヌに問いただした。

「そうね……。魔法を防御しないで戦わない? 私は、これで他の魔女を倒したわ……」

 ランシーヌがそう言った瞬間、サービラは驚愕したのだ。

「信じられないでしょうけど、本当のことよ」

 彼女はクスクスと笑いながら答えたのだ。

(彼女以外の魔女と戦っていないけど、彼女は他の魔女と戦って生き残っている……)

 サービラはランシーヌが嘘を言っているとは思えなかった。だから、本当なのだろうと思ったのである。

(だとしたら、彼女には培った経験がある……。下手に同意すると自分自身が不利になるかもしれない……)

 サービラは彼女の実力を認めていたからこそ、安易に賛成せずにいたのだった。

(彼女と戦う場合、どんな魔法を使えばいいのか……)

 そう考えていると、ランシーヌは再度同じことを聞いてきたのだ。

「どうするの?」

 そんなランシーヌの問いに彼女は悩んだ結果、こう答えたのだった。

「分かったわ……。魔法を防御しないで戦えばいいのね?」

 サービラがそう言うとランシーヌは満足そうに頷き、お互いに呪文を唱えだしたのだった。


 その頃、ラドリックは大剣を自分に構えて向かってくるオトフリートに対峙していた。
 オトフリートは、彼の間合いに入らずに大剣を下から上に向かって唸りながら切り上げたのだった。

「ウォォ――!」

 俺は剣で防御したが、オトフリートが斬り上げた大剣に弾かれてしまったのだ。その衝撃で後ろへ少し後退してしまっていた。

(なんて力だ……)

 防いだにも関わらず、俺の腕は痺れていたのである。その為、追撃をすることが出来なかったのだ。
 そして、オトフリートは剣を振り下ろしながら突っ込んできたのだ。俺は振り下ろされる剣を横に避けて躱したのだが、地面に当たった瞬間、地面に土埃が舞っていたのだった。

(なんて破壊力だ……。まともに剣で受けたら折れてしまうぞ……)

 大剣の威力を見て驚く俺にオトフリートは剣先を俺に向けてきたのである。
 そして、ニヤリと笑みを浮かべながら話し掛けてきたのだ。

「どうした? 怖気付いたのか? まだまだ、序の口だぜ!」

 俺は彼の問い掛けに無言で鋭く睨みながら剣を構えたのだった。彼は俺の顔を見て気持ちが昂ぶりだしたのか、ニヤリと笑みを浮かべていたのだ。

「いいねぇ……心は折れてないな! 殺りがいがある!」

 そう言うと大剣を構えながら、ゆっくりと俺に向かって歩いて来たのだ。
 彼の大剣を見詰めながら警戒し、いつでも対処できるようにしていた。
 そんな俺を彼は睨みながら話し掛けてきたのだ。

「お前は何故、黒髪の魔女の配下になったんだ?」

 オトフリートの問いに答えを吟味しながら答えていた。

「別に大した理由じゃないさ……。彼女が魔女狩りで連れられていたのを助けただけだ。それに配下としてではなく仲間として一緒に戦っているだけだ」
「仲間ねぇ……。まぁ、それだけで魔女と一緒にいるとは思えんがな……」
「お前達の方こそ何故、配下になったんだ?」

 俺はそう質問すると、彼は目をそらさず見ながら答えだしたのだ。

「最初の内、俺と兄貴は人間を超えた力を手に入れる為だった。団長の方は野望を抱いていたが……。しかし、俺はサービラと出会って考えが変わった……」
「どう変わったんだ?」

 そう聞くと、彼は真摯な表情を浮かべながら語り出したのだった。

「俺はサービラに会って初めて愛と言うものを知ったんだ……。今まで、本気で女を愛したことなんてなかったが、サービラと接している内、彼女のために戦いたいと思ったのだ」

 俺はオトフリートの告白を聞いて驚きを隠せなかった。更にお構いなく、彼は話を続けたのだ。

「俺はサービラを愛している。彼女を守るためにお前達と戦う!」

 そして、大剣を振り上げて肩まで担ぐと、俺に向かって突っ込んできたのだった。
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