第41話 廃砦の中で

文字数 2,684文字

 双子達とシャイラの活躍で盗賊達を全員倒した俺達は、リーダー格の男を尋問していた。


「アジトは何処なの?」


 ミラが聞くと男は答えたのだ。


「この先を暫く行くとある廃墟だ……」


 そんなやり取りを見ていた俺はシャイラに小声で話し掛けた。


「アジトを聞き出したら、こいつ等を皆殺しにするつもりか?」


 俺の問いに彼女は真面目な顔をして答えたのだ。


「大丈夫よ……。全員連れて行くつもりよ……。アジトの場所を聞いた後は用済みになるから、その時に皆殺しにするつもりよ……」

「そうか……。相変わらず、えげつない考えだな」


 俺が呟くと彼女は微笑んでいた。そして、シャイラは尋問を再開したのだ。


「アジトには何人ぐらいいるの?」


 男が答えると20人と答えたのである。どうやら、盗賊は全員で30人近くいたようだ。

 シャイラは尋問を終えると俺とランシーヌに話しかけて来た。


「私の魅了の能力を使って盗賊達を操ってアジトまで案内させるわ……」

「それは、いいな……。頼むよ」


 俺が答えるとシャイラの目が赤くなっていた。そして、盗賊達を魅了し始めたのだ。

 シャイラと目が合うと男達の表情がトロンとした表情を浮かべていた。皆虚ろな表情になっていたのである。


「アジトまで案内しなさい……」


 彼女が呟くと盗賊達は、自分たちの馬車に乗り込み動かしだしていた。

 皆と話し、双子達とシャイラが奴隷商人に売るための捕虜役になり俺自身は盗賊達の仲間の真似をする為に顔の下半分をスカーフで覆った。

 そして、俺達の馬車は盗賊達と一緒にアジトに向けて走り出していた。

 因みにランシーヌは、ばれない様に透明化の呪文を唱えて姿を消して馬車の中に乗っていたのだ……。


 暫く、馬車で移動していると砦跡の様な廃墟が見えて来た。

 どうやら、あの中に盗賊達のアジトがあるようだ。だが、まだ距離があり中にいる人達までは分からなかったのだ。

 ミラ、ニア、シャイラに任せて俺は盗賊役に徹していた。そして、砦跡の近くまでやって来たのだが……。


「止まれ!!」


 砦跡の入り口の前には見張りの男が2人立っていたのだ。男達は槍を持って武装していたのである。


「おい! 今日は何を略奪してきた?」


 見張りの男が尋ねると、操られている襲撃してきたリーダー格の男が答えたのである。


「ああ、この先の街道で馬車を襲ったら3人の女達を捕虜にした。皆、上玉だから高く売れるだろう」


 そう言うと見張り達は俺達の馬車の中を覗いていた。


「おお! 本当に上玉だな!」

「お頭が羨ましいぜ!」


 見張りの男達が言うと男達は中を除いてニヤニヤしていた。これから中で起こるであろう出来事を想像していたようだ。

 そんな中、シャイラが見張りの2人に魅了の能力を使ったのだ。

 すると見張り達の表情がトロンとしていた。目が虚ろになっているのを見て、俺は心の中で改めて魅了の能力に驚かされていたのである。

 そして、シャイラが見張りの男達に話し掛けていた。

 魅了の能力で操られた見張り達にアジトの中を案内させたのだ。

 砦の中に入ると盗賊達は馬車を降りて中に入って行った。

 中は薄暗く、ボロボロになった建物が並んでいて瓦礫の山が散乱していた。その所為か昼間だというのに暗く不気味な雰囲気を醸し出していたのである……。

 暫く進んでいると大きな広間がありそこに盗賊達は入って行ったのだ。

 広間の奥は広くなっており、そこに盗賊の頭と思われる男が座っていた。男は30代半ばくらいで体格が大きく筋肉質であった。


「お頭! 今日は上玉の女を捕虜にしてきましたぜ!」


 見張りの男がそう言うと他の盗賊達も騒ぎ始めたのだ。


「女だと!?」

「綺麗なのか?」

「久しぶりにやりたいぜ……」


 頭はニヤリと笑って答えた。


「よし、こっちへ連れて来い!」


 命令すると、見張り達は捕虜役の彼女達を連れて男の前に連れて行ったのだ……。

 俺は盗賊役としてバレない様に目立たないようにしていた。ランシーヌも透明になって近くにいるだろう……。

 そして、彼女達が連れて来られると頭は品定めするように舐めるように彼女達を見ていたのだ。


「ふむ……。確かに上玉だな! これは高く売れそうだぜ……」


 頭が呟くと彼女達を舐め回すように見つめていたのだ。その光景を見た俺は同じ男として嫌悪感を抱いていた。


「おい! お前達、こっちに来い!」


 男が叫ぶと見張りの盗賊達は彼女達を連れて来た。


「大人しくしろ! 抵抗しなければ優しくしてやるぞ……」


 頭は厭らしい笑みを浮かべながら彼女達を見ていたのだ。その目は獲物を狙う獣のようだった。

 そんな光景を見たシャイラは冷たい視線で男を見て言ったのである……。


「あなたのような屑に触られたくないわ!」


 盗賊に対して嫌悪感を抱いているシャイラが吐き捨てるように言うと、不機嫌な表情になっていた。


「何だと! お前達は俺達の商品になるんだよ……。大人しくしていれば優しく扱ってやるぜ!」


 俺は心の中で『この腐れ外道が……』と思っていたのだ。すると、次の瞬間にシャイラは男に魅了の能力を使ったのだ。

 シャイラの能力で、男の目がトロンとしていた。そして、虚ろな表情になってボーッとしていたのだ。


「さあ、大人しくしなさい……」


 彼女が言うと頭は焦点が定まっていない目で彼女達を見ていた。


「はい……」


 男が答えていた。完全にシャイラの魅了に掛かったようである。

 頭と見張りの男がシャイラの操り人形になっていたのである。

 そして、シャイラが命令した。


「他の盗賊を殺せ!」


 シャイラが叫ぶと頭は頷いたのだ。


「……はい」


 頭が答えると、近くに置いてあった斧を持って立ち上がったのだ。

 そして、見張りの盗賊と一緒に魅了されていない盗賊達を襲い始めたのである。


「お! お頭! 何をするんだ!?」

「気でも狂ったか!」


 見張りの盗賊も武器を手に取って襲い掛かったのだ。頭の斧の一撃が盗賊の脳天に直撃した。


「ぐわぁぁ!!」


 盗賊達は脳漿を飛び散らせながら、地面に倒れたのである。

 暫くすると、頭と見張りだけになった。


「お互い、殺し合いなさい!」


 シャイラが叫ぶと2人は睨み合っていた。

 盗賊の頭が持っていた斧を投げたのだ。すると、それが見張りの頭に突き刺さり男は息絶えていた。

 そして、頭は虚ろな目でなく憎悪の目でシャイラの方を見たのだ。


「お前達、全員殺す!」


 頭が叫ぶとシャイラは顔の色を変えたのである。


「どうして? 私の能力が効かなくなったの?」

「残念だったな……。お前の能力は俺には効かなかったようだな……」


 男は斧を死体から引き抜いて答えていたのだった。
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