第36話 アレシアの死に際

文字数 2,467文字

 2人の魔女が戦っていた頃、俺はハーピーと化したアレシアと戦っていた。

 彼女は、空を飛び回りながら俺の隙を伺っていたのだ。


「どうした? もう終わりか?」


 俺は挑発するように話し掛けた。何故なら、上空を飛び回っている時は、こちらから手を出せなかったからだ。

 迂闊に攻撃を仕掛ければ、こちらが不利になる。それに、彼女の動きにも警戒していたのであった。


「うるさい!」


 彼女は叫ぶと、急降下してきた。そして、鋭い爪で斬りかかってきたのだ。

 俺はその攻撃をギリギリのところで躱すと、彼女の懐に入った。


「くらえ!!」


 そこを狙って斬りつけたのだが、俺の攻撃は躱されてしまったのである。

 そして、アレシアは再び上空へと飛び去っていったのだった。

 遠くから、爆発音が聞こえてきたが気にしていなかった。

 たぶん、ランシーヌとアンドレアが戦っているのだろう……。


「フフフフ!」

「ハハハ……」


 彼女は勝ち誇ったように笑っていたが、俺も笑っていたのだ。


「何がおかしいの?」


 俺が笑っているのを不審に思い聞いてきたので更に挑発することにした。


「いや……、怖がりだと思ってな……」


 その一言で彼女は怒りだしたが、構わずに話を続けた。


「さてと……そろそろ終わりにするわ……」


 アレシアは突撃する態勢で両翼を広げて突進してきたのだ。剣を構えると、俺もアレシアに向かって走り出した

 そしてお互いに間合いに入った瞬間、攻撃を仕掛けたのである。

(今だ!!)

 素早く斬りかかったが、彼女は急に旋回をして俺の後ろに回り込んでいたのだ。

(しまった!?)

 そう思った時には既に遅く、彼女は俺の背中に爪を突き立てていたのだ。


「ぐっ……」


 背中に激痛が走ったが、俺はすぐに振り向いて攻撃を防いだのだ。


「やってくれたな……」


 そう言いながらも、俺は笑みを浮かべていた。

(面白い……。絶対、倒してやる……)

 今の俺は興奮しており、アレシアとの戦いに昂ぶっていたのである。

 そんな俺の姿を見てなのか、彼女も興奮したような表情をしていた。そして、再び俺に攻撃してきたのだ。

 だが、俺は冷静に彼女の動きを見ていた。そして、攻撃を躱すと反撃に転じたのである。


「これで終わりだ!!」


 俺は素早い一撃を繰り出したのだ。その攻撃は彼女に命中して、右翼が大きく裂かれていた。


「うっ……」


 彼女は苦痛の声を上げると、そのまま地面に落下していった。そして、地面に激突した衝撃で土埃が舞い上がったのである。

 アレシアがどうなったのかを確かめようと近づいて行くと、彼女は必死に起き上がろうとしていたのだ。

 俺は剣を構えてトドメを刺そうとしたのだ。

 その時であった。突然、アレシアが人間の姿に戻ったのである。

 ハーピー化した時に右翼を切り裂いていた所が右腕に深い裂傷となって出血していた。

 そして、倒れているアレシアに近付いて行ったのだ。すると彼女は今にも瀕死の状態だったのである。

 彼女は、もう抵抗する力は残っていないようであった。


「……殺さないの?」


 不思議そうに聞いてきたので俺は答えたのだ。


「もう、戦えない状態じゃないか。そこまでして、止めを刺したい訳ではないからな……」


 それを聞いたアレシアは、安心したような表情で俺を見つめていたのであった。


「そう……。ねえ……、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」


 彼女は弱々しく話しかけてきた。そんな彼女に対して俺は黙って聞いていたのだ。


「何だ?」


 アレシアが語った内容は、こうであった。


「私はアンドレアから仮初めの命を与えられたの……。本来なら、疫病に罹った時点で死んでいたわ……。力を失ったから、もう私は長くないみたい……」


 そう言いながら彼女は涙を流していた。俺は黙って聞いていた。

 すると、彼女は続けて話し始めた。


「最後に……私の頼みを聞いてくれる?」


 俺は無言で頷くと、彼女は安堵したような顔をしていた。そして、ゆっくりと語り始めたのだ。


「お願いと言うのはね……。私に口付けして欲しいの……。もう長くないから……」


 彼女の願いを聞いた俺は少し戸惑っていたが、彼女の唇に軽く口付けをしたのだ。

 すると、アレシアは涙を流しながら嬉しそうに微笑んでいた。


「ありがとう……これで……思い残すことは……ないわ……」


 彼女はそう呟くと静かに目を閉じたのである。その表情は安らかであった。

 俺は暫くの間、彼女の亡骸を眺めていたのだった……。


 アレシアとの戦いを終えた俺は、ランシーヌがいる場所へ向かっていた。

 すると彼女は双子達と一緒に佇んでいたのだった。よく見ると胸の所の服が破けて胸が丸出しになっていた。

 胸から目を逸らしアンドレアらしき服を着た骨になった死体と腐敗した肉片が目に付いた。

(勝ったのか……)

 俺は3人の姿を確認すると安堵していた。すると、ランシーヌは俺に気が付いたようでこちらに振り向いたのである。


「無事に戻ってきたのね……」


 彼女は疲れた表情をしていたが、余力を残しているようであった。そんな彼女に対して俺は問いかけたのだ。


「倒したんだな?」


 その問いに彼女は笑顔で答えたのである。


「ええ、貴方が戦っている間にね……。そっちはどうだったの?」


 ランシーヌに簡潔に事の顛末を話して聞かせたのだ。すると彼女は納得したような表情をしていたのである。


「そう……。残念だったわね……」

「そうだな……。だが、君達が無事で良かったよ」


 そう言うと、彼女は礼を言ったのだ。


「ありがとう……」


 もう1人、近くで倒れている女性がいた。


「彼女は誰だ?」


 俺がそう問いかけるとニアが答えたのだ。


「アンドレアの守護者の1人……。シャイラとか言ったわ……」


 それを聞いて、俺はシャイラに近付いて行ったのだ。すると彼女は意識を取り戻したのである。


「うっ……う……」


 彼女の首元を見ると2つの牙の跡が付いていた。おそらく、ミラに血を吸われたのだろう。


「その人は、私の眷属になっている状態よ……」


 ミラが答えてくれたのでシャイラの方を見ると、虚ろな表情でこちらを見ていたのだった。
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