第42話 新たな魔女の影

文字数 2,610文字

 俺や双子達も盗賊の頭にシャイラの能力が効かなかった事に驚愕していた。


「どうして? 私の能力は完璧だったのに……」


 シャイラが言うと、頭はニタニタ笑いながら答えたのだ。


「確かに、お前の能力は本物だ……。だが、ある女から貰った能力のお陰で乗り切れた……」

「それは、誰?」


 シャイラが聞くと頭は含み笑いをして答えたのだ。


「それは、国境の町ブリーストンにいる妖しい術を使う女だ……」

「妖しい術……。まさか、魔女の事?」

「それは分からないな……。だが、その女から貰った能力のお陰だ!」


 頭が答えているとシャイラは舌打ちをしていた。

 そして、俺や双子達の方を見て悔しそうにしていた。おそらく、能力で魅了出来ないと判断したのだろう……。


「話はここまでだ……。くたばれ!」


 男は叫ぶと斧を振り回してシャイラを襲った。


「まずい!」


 俺は叫ぶが透明化したランシーヌが耳元で囁いたのである。


「大丈夫よ。ここはシャイラを信じましょう……」


 俺は頷いて、彼女の言葉通りに黙って事の顛末を見守る事にしたのだ……。

 シャイラは襲い掛かる斧の一撃をかわしていたが、すぐに次の攻撃が来た。

 太い腕で斧を振り回してシャイラに襲い掛かったのだ。

 彼女は攻撃をかわしながら考えていた。

(魅了の能力は効かないか……。それにしても何者なの? あの男に力を与えたのは……)

 そして、彼女の後ろは壁で退路を塞がれたのである。


「死ねぇー!」


 男は叫びながら斧を振り下ろしたのだ。

 同時に彼女の口から男に向かって液体の様なものが飛んで行った。

 そして、男の顔に液体が付着した次の瞬間、男は顔を押さえて苦しみだした。


「ぐわぁぁ!! 目がぁ! 目がぁ!!」


 彼女の口から放った液体は強力な酸性の毒だったようで男の顔は焼けただれていた。

 シャイラは男が怯んだ隙に距離を取ったのである。そして、彼女は半人半蛇の姿になったのである。


「これで終わりよ!」


 彼女は叫ぶと蛇と化した下半身で男を締め上げた。


「ぐぐ……苦しい……」


 男が藻搔いているとシャイラが耳元で囁いたのだ。


「このまま、絞め殺されるがいい……」


 彼女は締め上げている尾に一気に力を入れた。


「ぐわぁぁ!!……」


 男の全身からボキボキと骨が折れる音がして口から血を吹いて息絶えていた。

 その死に顔は苦痛に満ち、体中の関節が捻じ曲がって首があらぬ方向を向いていた。

 シャイラは暫く男の死体を見ていたが、その後、俺の方に向かって来て話し掛けてきた。


「これで盗賊のボスをやっつけたわ。残りの盗賊達も殲滅しましょう」

「良くやったわ! これで、私の配下として言うことないわ!」


 ランシーヌが透明化の魔法を解いてシャイラを褒め称えたのである。

 そして、俺達は他の盗賊達を退治する為に移動したのである……。


 シャイラが盗賊のボスをやっつけて、残りの盗賊達を退治する為に俺達は砦の中を移動した。


「魅了した盗賊達に仲間達と争うように仕向けるわ……」


 彼女が言って扉を開けると数十人の盗賊達がいた。


「あなた達! お互い、殺し合いなさい!!」


 彼女が命令すると、魅了された盗賊達は武器を持って仲間達と殺し合いを始めたのである。


「ぐわぁぁ!!」

「死ね! 死ね!! 死ね!!!」

「何しやがる!」

「殺す! 殺す! 殺す!!」


 盗賊達は口々に叫びながら殺し合っていた。


「貴女達も加わりなさい!」


 ランシーヌが双子達とシャイラに言うと、3人共嬉々として殺し合いの中に飛び込んで行ったのだ。

 シャイラが半人半蛇の姿で、ミラは牙でニアは爪で次々と倒して行ったのである。

 盗賊達の叫びと断末魔の叫び声が響き渡っていたが、やがて聞こえなくなっていた。

 そして、全ての盗賊達を倒した後、俺達は廃砦を後にしたのである。


「皆、よくやった! これで、ウォードの村が襲われる心配はなくなったぞ!」


 俺は廃砦を脱出した後、労いの言葉を皆に送った。


「当然よ! 私達がいれば、どんな敵も瞬殺よ!」

「人間相手に負けるなんてありえないわ!」


 双子達は得意気に胸を張って答えていた。


「しかし、シャイラの能力は凄いな……」


 俺がシャイラに話し掛けると彼女は淡々と答えていた。


「別に凄くはないわ……。私の能力なんて大した事ないわ……」


 そんな事はないと思うがな……と思っていた。だが、俺は敢えて口に出さなかったのだ。

 シャイラは、彼女なりに何か思う事があるのだろう。

 そんな会話をしているとランシーヌが話し掛けてきたのだ。


「どうやら、ブリーストンという町に魔女がいるみたいね……」

「ああ……。傭兵時代に、その街で仕事を請け負った事がある……」


 俺が答えるとランシーヌはニヤッと笑った。


「それなら、ブリーストンまでの道はわかっているわね。そこで魔女を捜しに行きましょうよ!」


 ランシーヌの言葉に俺は頷いて答えた。


「ああ……分かった!」


 そして、俺達はブリーストンに向けて出発したのだ。


 それから暫く馬車でブリーストンに向かって西に進んでいた。

 盗賊達が根城にしていた廃砦から馬車で1日経つと俺達はブリーストンの街に到着したのだ……。

 ブリーストンは国境の町という事もあって、かなり厳重な警戒をしているようだった。

 街の門には兵士が配置されており、通行証や商人の荷物などを検査していたり出入り禁止の人物をチェックしていた。


「凄く警戒が強いわね!」


 ランシーヌが門の入り口付近で馬車の中で外を覗きながら呟いていた。


「そうだな……。この町は隣国との小競り合いが多いから厳重なんだ……」


 俺はランシーヌに説明していた。

 隣国との小競り合いが多いので、厳重な警備は必要なのだ……。

 それ故に傭兵や騎士団が多数常駐しているはずである。


「とにかく、入る為には検問所を通らないとな……」


 俺が言うと、ランシーヌが頷いていた。


「そうね……。でも、検問所の前には兵士が何人も見張っているわよ……」


 確かに彼女の言うように検問所の前には兵士が多数配置されているのだ。ここで問題を起こすわけには行かないのだ。


「そうだな……。騒ぎを起こさずに検問所を通過しないとな……」


 俺が言うと、シャイラが提案してきたのだ。


「それなら私が兵士達を魅了して通して貰う?」


 シャイラが言うとランシーヌも頷いていた。


「そうね……それがいいかもね……」


 そして、馬車から出て行ったのだ。そして、2人は兵士の所に歩いて行ったのである……。
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