第35話 アンドレアの死

文字数 2,268文字

 2人の魔女が呪文を唱えると、凄まじい爆発がぶつかり合って辺りに衝撃が走った。

 お互いに一歩も譲らないまま魔法を放っていたのであった。

 爆発の煙の中から2人が姿を現すと、2人とも満身創痍で立ってるのがやっとの状態であった。

 ランシーヌの方を見ると爆発に飲み込まれた事により、服が破けて肌が見えていた。

 しかも、体には無数の傷があり皮膚が破れて筋繊維が露出していた。

 更に胸が抉られていたのだ。そこから大量の出血があり、普通の人間では動けるような状況ではなかった。

 それに対してアンドレアの方も無傷ではなく、体の至る所が焼け爛れていた。

 特に、左腕は手首から先を失っている状態であり傷口から血が滴っていた。

 だが、それでも2人とも戦意を失っていなかったのである。

 2人の魔女は、お互いに睨み合っていた。

 しかし、突然ランシーヌが笑い出したのだ。


「ふふ……あはは……」


 彼女は笑いながらアンドレアを見ていた。そんな彼女に対して、アンドレアは不快そうな表情をしていた。

 そんな様子にも構わずにランシーヌの笑い声は続いていたのだ。


「何が可笑しい?」


 アンドレアは、苛立ちながら質問をした。

 すると彼女は、笑いを止めて答えたのだ。


「だって、可笑しいじゃない? 私達は不死身なのよ! だから単純な攻撃では決着はつかないと思うの……」


 彼女の言葉を聞いて、アンドレアは納得したような表情をしていた。


「確かに……その通りだ……」


 2人は見つめ合いながら不敵な笑みを浮かべていたのである。

 そして、お互いに距離を取り始めたのだ。

(何か仕掛けてくるつもりだな……)

 アンドレアは警戒しながら、間合いを計っていた。


「そろそろ決着をつけましょう……」


 そう言うとランシーヌは、大きく息を吸い込んで叫んだ。


「腐敗を、もたらす赤き霧よ! 我が敵を腐らせ肉片へと変わり果てさせよ!!」


 ランシーヌの叫びと同時に、辺りに赤い霧が発生してアンドレアを包み込んでいった。

 彼女は、魔法が発動した瞬間に勝利を確信していた。

 アンドレアは片方の守護者を殺された事により再生能力が落ちていると判断した。

 実際、彼女の左手は傷は塞がっているものの完全に再生できていないのだ。

 対して、ランシーヌの抉られた胸の傷は再生しかかっていたのだ。

 エリノーラとの戦いでの経験で、それは確信に変わったのであった。

 アンドレアも、ランシーヌを確実に倒す為の呪文を唱えた。


「生けるものすべて固まれ! 石化するがいい!!」


 魔法を発動させると、ランシーヌの体が徐々に石化していった。


「う……くっ……」


 ランシーヌは苦しそうに呻いていたが、全身が無機質な石になって動かなくなくなってしまったのである。

 アンドレアは勝利したと思っていたが、次の瞬間彼女の表情が一変したのだ。


「そんな……馬鹿な……」


 彼女の体が徐々に紫色に変色していったのだ。

 そして、自身の体が段々と腐敗していく姿に愕然としていた。彼女の体は再生能力があるにも関わらず、腐敗していくのであった。


「くっ……!! 私の体が腐っていくなんて……」


 アンドレアは、自身の体が腐っていく様子に恐怖と絶望を感じていた。


「わ、私は不死身ではなかったのか……?」


 彼女は、体を抱き締めながら震えていた。

 腐敗が進行していく状態を、ニアは気を失った姉の介抱をしながら見ていたのだ。

(勝った……? けど、ランシーヌは石になったままだけど……)

 そんな事を考えていると、急にアンドレアの体が崩れ落ちたのだ。そして地面に跪いていた。


「ぐぅぅ……」


 彼女は、呻き声を出していたが体中の皮膚がボロボロと崩れ落ちていった。

 崩れた皮膚から肉がドロドロに溶けていき、骨が見え始めてきた。

 顔面を見ると顔の肉も溶け始め両方の眼球がポロンと飛び出し、頭蓋骨が露出してきたのである。

 胴体の方も溶けだした肉の中から一緒に内臓がはみ出し腸が垂れ下がっていた。


「……あぁ……あがぁ……あがががが……」


 もはや彼女は言葉を発することができなくなっていた。

 そして、全身の肉が溶けていき骨と腐敗した肉片を残して全く動かなくなったのである。

(これが……アンドレアの末路……。ランシーヌはどうなったの?)

 石となったランシーヌを眺めていたら、石化した彼女の体にヒビが入っていたのだ。

 最初は、石化していた箇所が剥がれ落ちていき徐々に元の体に戻っていくのであった。やがて完全に元の状態に戻ると、彼女は意識を取り戻したのである。


「ニア……」


 彼女は苦しそうにしながらも、声をかけていたがふらついて倒れてしまった。


「ランシーヌ……大丈夫?」


 ニアは心配そうに声をかけたが、ランシーヌはゆっくりと起き上がった。しかし、まだふらついている状態である。


「問題ないわ……」


 そう言いながらも彼女はアンドレアだった肉片と骨を見詰めていたのである。


「本当に死んだの?」


 その質問に、ランシーヌは無言で頷いた。


「そう……。これで……終わったのよね?」


 ニアが不安げに質問するとランシーヌは再び頷き、こう答えたのだ。


「ええ、終わったわ……。私も石化された時は死んだかと思っていたわ……」


 その言葉を聞いた瞬間、ニアは安堵した表情を浮かべていた。そして、ミラも同時に目を覚ましたのだ。


「お姉ちゃん!! 無事でよかったわ!」

「ニア……」


 2人は無事を確認すると抱き合ったのである。


「これで2人倒したわ……」


 ランシーヌは夜空を見上げて呟いた。その表情には、疲れが滲み出ていた。

 3人は勝利を実感したのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み