第67話 サービラ死す

文字数 2,774文字

 サービラは鎖に引き千切られたランシーヌを見て、心の内に勝ちを確信していたのである。しかし、突然、自分に突き刺さった杭が爆発したのだった。

 彼女の上半身と下半身が吹き飛ばされ地面を転がり血塗れになりながらも自分の状況を把握しようとしたのだ。


「一体……何が……」


 そう呟き痛みに耐えながら自分に起きたことを把握しようとしたのだ。

 すると、視線の先に自分の下半身が横たわっていたのだ。


「私の……半身が……」


 サービラは現状を把握できずに混乱していた。そして、自身の胴体を確認すると、内臓は飛び出して散乱していた。辺りは自身の血と臓物で血みどろになっていたのだ。


「あ……あぁ……」


 サービラは自分の状況を段々と理解していったのだ。


(体……、体をくっつけなくては……)


 彼女は自分の体を必死にくっつけようと、横たわった下半身を引き寄せ始めたのである。だが、どうやっても下半身は癒着しなかったのだ。


(何故……、繋がらないの……)


 サービラは必死に考えていると、自分の目の前にランシーヌの生首が転がっていたのだった。

 彼女の生首が、こちらに視線を向けると喋りだした。


「貴女の守護者が死んだのね……」

「オトフリートが死んだ……?」

「魔女は守護者が死ぬと不死身の能力が弱まるわ……」


 サービラはランシーヌの話を聞いて絶望と悲しみが襲っていたのだ。


(オトフリートが死ぬなんて……。私が愛したあの人が……)

「これで貴女は死を待つだけね……」


 ランシーヌは生首の状態でいても笑みを浮かべていたのだった。彼女が不死身であることを知らない者が、この状況を見たら仰天して失神してしまうだろう。

 サービラは、ただ地面を這いずっていた。彼女は自分の死期が近いことを感じていたのだった。


(このまま死ぬの……? 死ぬ前にあの人の元へ……)


 サービラは必死に這ってオトフリートのいる場所に向かっていたのである。


 俺はランシーヌの元へ向かっている時、這いずってこちらに近づいて来る何かの影を見つけたのだ。

 そして、その影の正体がサービラだと分かり、しかも半身だけになって這っていることに肝をつぶしていたのである。


「……」


 俺は無言でサービラを見詰めていた。彼女は一心不乱に這いずりながら俺の事に眼中はなく通り過ぎたのだった。その顔は苦痛で歪み目を見開きながら這っていたのである。

 這った後には彼女の血の跡が続いていたのだ。あの様子だと、もう死期が近いのだろう。

 彼女の行く先がオトフリートの所だと悟り、俺はランシーヌの元へ急いだのだった。


 森の中央まで来ると、そこには先に双子達とシャイラが先にいたのだった。

 俺は双子達とシャイラが、落ち着きをなくして何かを見つめているのに気がついたのだ。

 視線を辿るとそこにはランシーヌの首と千切れた手足、胴体が転がっていたのである。

 彼女達も先程、着いたらしくランシーヌの状態を見て気が気でなかったのだ。


「どうしよう……ランシーヌが……」


 ニアはその光景を見て唖然としていたのだった。ミラ、シャイラも息を呑んでオロオロしていたのである。

 以前、ランシーヌが敵から首を切断されたことがあるため、この状況に彼女達より多少慣れていた。


「ランシーヌ……」


 俺は彼女の首を持って胴体の切断面にくっつけたのだった。


「刃物の痕じゃないから癒着するのに少し時間が掛かると思うが……」

「うぅぅ……痛かった……」


 彼女は目を閉じながら苦痛に顔を歪めて答えていたのだ。そして、次第に痛みが引いてきたのか、ゆっくりと目を開け俺の方に視線を向けて見つめていたのである。


「ランシーヌ……」


 俺は彼女の頭を撫でていた。すると彼女は俺に視線を向けて喋りだしたのだ。


「あぁ……ラドリック……」

「しっかりしろ……」

「貴方がいるってことは……私は勝ったのね……」

「あぁ……そうだ」


 俺は彼女に返事すると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべてゆっくりと目を閉じようとしていた。


「手足もくっつけるからな」


 すぐに彼女の手足を、それぞれの切断面に癒着させたのだった。


「これで大丈夫だ、しばらく安静にしていろ」


 俺がそう言うとランシーヌは幽かに笑みを浮かべていた。


「ありがとう……ラドリック……」


 彼女はそれだけ言うと目を閉じて眠ったのだった。

 俺がランシーヌの看病をしている間、双子達はずっとその場を動かずに心配そうに見つめていたのだ。


「ねぇ……大丈夫よね……?」


 ニアが俺に質問してきた。俺は彼女とミラの不安げな顔を見て安心させるように答えたのである。


「大丈夫だ……後は暫く安静にすれば回復するだろう」

「わかった……」


 ミラは安堵の表情を浮かべて言葉を漏らしていた。そして、俺達はランシーヌが目覚めるまで待つことにしたのだった。



 その頃、サービラは森の中を這いずって遂にオトフリートを目の前にしていた。

 今こうして大剣に寄りかかって死んでいる彼を見て思い出に耽っていたのである。


(オトフリート……私の愛する人よ……最後に貴方のところで死にたい……)


 彼女は最後の力を振り絞り上半身を引きずって彼の近くに寄せたのだった。


「……私の愛しい人……」


 彼女はそれだけ言うと動かなくなっていた。彼女は愛する人の傍に寄り添って冷たくなっていた。そして、微笑みを浮かべながら逝ったのである。



 ランシーヌの容態は数時間で安定して、彼女はゆっくりと目を開けたのだった。


「気分はどうだ?」


 俺は彼女に声を掛けると、彼女は微笑みながら答えていたのだ。


「大丈夫よ……」


 俺が彼女の様子を見て安心していると、彼女達の傍で見ていた双子達が話しかけて来たのだ。


「ランシーヌ!!」


 ニアが泣きながら彼女の名前を呼んでいたのだ。すると、ランシーヌはニアに微笑んでいたのだ。


「心配かけたわね……」


 彼女はそれだけ言うと、俺の顔を見つめたのである。


「貴方には感謝しきれないわ……、また助けて貰ったから……」


 俺はランシーヌに感謝されて照れ臭くなり顔を背けたのだった。すると、ミラがランシーヌに質問してきたのだ。


「サービラの手下を私の眷属にしたんだけど、彼女はどうするの?」


 ミラはベスの処遇をランシーヌに訊ねたのである。すると、彼女は少し考えて答えていたのだった。


「そうね……暫くは、様子を見てみましょうか……。私達の仲間になってくれたらいいけど……」

「えっ? 彼女を仲間にするの……?」

「えぇ……、魔女を倒すためには一人でも味方は多い方がいいから……」


 ランシーヌがそう答えた時、ニアは露骨に嫌な顔をしたのである。


「嫌よ……あんな卑怯な女……」

「そう言わないで、彼女だって私達の役に立てるはずよ」


 ランシーヌに言われて、彼女は渋々と言った感じではあったが了解していた。

 俺は今後の彼女達の関係に不安を覚えながらも森を後にしたのだった。
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