第４５話　酒場にて

　俺達は、この町にいる魔女についての情報を得る為に酒場に来ていた。

　酒場の中には様々な人達が飲み食いをし、雑談をして騒がしかったが空いている席を見つけ座ったのである。

「ねえ……、さっきから2人の男性が、こっちをジロジロ見ているよ……」


　ニアが俺に話し掛けてきた。俺は2人の男を見ていた。

　２人共、長身で只者でない雰囲気が感じられていたのである。

「あの、男達か……。まあ、気にしないでおこう……」


　2人が彼女達を見ているのは仕方ないだろう……。俺も男だから、気持ちは分かるが……。

「そうだね……。なんか、嫌な感じだよ……」

「何か気持ち悪いね……」


　こちらの視線に気付き2人は彼女達を見るのを止めて酒を飲み始めていた。

「何だか、あの2人は怪しいぞ……」

「そうね……。私も、そう思う……」


　俺が2人を観察するように見ているとミラも同意していた。そして、俺は怪しい2人組を見ながら考えていたのだ。

（あの男達……何か嫌な感じがするんだよな……）

　考え込んでいると、俺の隣に座っているシャイラが話し掛けてきた。

「どうしたの……、何を考え込んでいるの？」

「いや、あの2人組が気になってな……」


　確かに、あの男達からは違和感を感じるのだ。だが、この違和感が何なのか分からない……。

　すると、向こうで酒を飲んでいた2人組の内、顎髭を生やしている男が立ち上がって俺達の方に向かって来たのである。

「やあ……、お前等は旅人なのか？」


　男はヘラヘラしながら話し掛けてきたのだ。俺達は警戒したが、そのまま男の話に耳を傾けたのだった。

「ああ……そうだが……」


　答えると顎髭の男がニヤリと笑ってきたのである。

「そうか……、この町にやって来たばかりの旅人か……。なぁ、俺達と一緒に飲まないか？」

「いや……遠慮しておくよ……」


　断ろうとすると、彼は俺の肩に腕を回して強引に誘って来たのだ。

「いいから、飲もうぜ！ 奢ってやるよ！」

「いや、俺達は……」


　辞退しようとするとシャイラが俺の袖を引いていた。

「一緒に飲みましょうよ……。この人、悪い人じゃなさそうだし……」


　ミラも俺の腕を掴んでウィンクしていた。どうやら彼女達は何か考えがあるらしい。

「じゃあ、少しだけなら……」


　俺が了解すると男は愉快そうな表情をしていた。そして、俺の横に座って酒を飲み始めたのである。

「まあ、お前達も飲め！」


　男が酒を勧めてきたので俺は飲んだ。すると、シャイラとミラが男に対して質問を始めたのである。

「ねえ……貴方達って、何をしているの？」


　シャイラが聞くと男は笑いながら答えていた。

「俺達は騎士だよ……。名前をまだ名乗ってなかったな……。俺はオトフリートで横にいるのがアニウスだ……。俺達は兄弟だ」

「ふーん……、その騎士様が私達に何の用なの？」


　ミラが興味深そうに聞いていた。すると、オトフリートは笑いながら答えていた。

「そりゃあ、君達のような美人と話をしたいからに決まっているだろう！」


　オトフリートが笑いながら話すとミラとニアは顔を見合わせて笑い合っていた。

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない！ なら、御酌してあげる！」


　ニアはオトフリートの杯に酒を注ぎながら話していた。

「ありがとうよ！ お嬢さん！」


　彼は酒を飲みながらミラに礼を言っていた。

「ところで、彼は君達の何だ？」


　オトフリートが俺に指を差しながら言っていた。

「……俺は彼女達の旅の護衛みたいなものだ」


　俺は言葉を濁すと、オトフリートは笑っていた。

「そうか……旅の護衛か！ しかし、こんな美人達と一緒に旅とは羨ましいな！」


　オトフリートが笑いながら言っていると彼女達も笑顔になっていた。

「ふふっ……、ありがとうね！」

「中々、嬉しいことを言うわね！」


　彼女達は笑いながら酒を酌み交わしていた。すると、アニウスが俺達に質問をしたのである。

「それで、お前の雇い主は彼女なのか？」


　アニウスがランシーヌを見ながら聞いてきた。

「ああ、そうだ……。雇い主は彼女だ……」


　俺が答えるとアニウスが頷いていた。

「そうか……、いい雇い主だな」


　アニウスはランシーヌを褒めていた。そして、彼も笑いながら酒を飲んでいたのだが目は笑っていなかった。

（この男……、何を考えているんだ……？）

　俺はアニウスに対して疑念を抱いていた。何を考えているのか分からないからだ……。

　すると、ランシーヌがアニウスに話し掛けてきたのである。

　ランシーヌは微笑みを浮かべながらアニウスに話し掛けていた。

「アニウス……、貴方も中々いい男だと思うわよ」


　ランシーヌが褒めるとアニウスは笑みを浮かべていた。

「ははっ、君に褒められると嬉しいな！ どうだ？ 今夜一緒に……」


　アニウスがランシーヌを誘っていると断っていた。彼女も笑いながら目が笑っていなかったのである。

「悪いけど、私は貴方に興味はないの。ごめんなさいね……」


　彼女はきっぱりと断っていた。俺はアニウスがランシーヌを誘おうとしている姿を見て動揺していた。

（一体、奴等は何を考えているんだ……？）

　彼は肩を竦めて残念そうな表情をしていたのである。

「そうか……、それは残念だな……」

「ガハハハ！ 振られたな兄貴！」


　オトフリートが豪快に笑っているとアニウスも笑っていたのだ。

「まあ、仕方ないさ……。さてと、俺達はそろそろ帰るかな……」


　アニウスは酒を飲み終えると立ち上がったのだ。

「また縁があったら、一緒に飲もうぜ！」

「じゃあな！ お前達も頑張れよ！」


　兄弟は笑みを浮かべながら俺達に激励の言葉を送ってくれたのだ。そして、そのまま酒場から出て行ったのである。

　彼等が扉から出て行き、姿が見えなくなるとニアが溜息をついていたのだ。

「何なの……あの人達……」


　彼女はあの男達が気になっていたようだ。それはミラも同意見だったようで頷いていた。

「そうね……。何か嫌な感じ……」


　2人は警戒していたようだ。それは俺も同じ気持ちだった。あの男達は怪しいと感じていたからだ。

「なあ、君はあの男達をどう思う？」


　すると、ランシーヌは少し考えて答えていたのだ。

「そうね……。嫌な感じがしたわ……。あの男達は魔女の手下か関係のある人間だと思うわ……」


　ランシーヌは真剣な表情で答えていた。どうやら、彼女は何かを感じているようだ。

　俺はランシーヌの雰囲気で確信していた。彼等は只者ではないと……。

（彼奴等……、かなり手強いぞ……）

　双子達も頷いていたのである。

　彼女はあの男達が只者ではないことを理解していたようだ。そして、シャイラもそれに気付いていたのだ。

　俺は酒場を出て宿屋に戻る最中、今後の事を考えていた。

（奴等とは、また会いそうだ……）

　俺は彼等と再会する気がしていたのである。その時は間違いなく戦いになるだろうと……。