第2話 2人の男達の企み

文字数 3,374文字

 暗くなり馬車を停め野営の準備を始めることにした。

 俺は薪を集め火を起こす準備をする。

 ハーキースが食事の準備をしてくれた。ゴードンは周囲の警戒にあたっていた。

 俺は食事をしながら3人に話しかける。


「ところで、君たちの名前を教えてくれないか?」


 俺の言葉に最初に反応したのは年長の女だった。


「私の名前はランシーヌ……」


 次に双子の姉の方が話す。髪の長さは肩までだ。


「私はミラ……」

「ニアよ……」


 最後は妹が答える。こっちの髪の長さは短い。


「俺はラドリックだ。それと、そっちの男はハーキースだ。見張りをしているのがゴードンだ」


 俺は自己紹介を済ませる。


「あなたは傭兵なの?」


 双子の姉が訊いてくる。


「いや、俺は冒険者だ……。以前は傭兵をしていたが、今は足を洗っている」

「そうなの……。それで、これからどこに向かう予定なの?」

「デムイの町の外れにある修道院だ……。そこで君達の裁判が行われる」

「やっぱり、死刑になるの?」

「それは分からない……」

「そう……」


 俺達は会話が続かなかった。

 それからは、皆が無言で食事を摂っていた。

 そして、交代で見張りを行うことになった。

 次の見張りは俺がすることになった。

 そして、焚火の前でハーキースとゴードンは会話をしている。

 俺は見張りをしながら考え事をしていた。

 明後日には、デムイの町に辿り着くだろう。しかし、この3人を連れて行って大丈夫なのだろうか……?

 それにしても、あの黒い狼は何だったんだろうか……?

 もしかすると、この辺りに色々危険な生物がいるのかもしれない。

 3人の女達は疲れていたのか檻に戻るとすぐに眠ってしまった。


 俺が見張りをしている間、ハーキースとゴードンはこんな会話をしていた。


「なぁ、あの3人の女達だが、何か訳がありそうだな?」

「ああ、俺もそう思うぜ……。ただ、修道院に送ってもその後、死刑になるだけなんだろ……?」

「そうだな……。だったら、明日の夜に俺達が犯しても問題ないのでは……?」


 ゴードンはニヤニヤしながら好色な顔をする。


「そうだな……。俺も双子達を一晩中可愛がってやりたいぜ……」


 2人は下品な笑いを浮かべている。


「よし、じゃあ決まりだな!」

「ああ……」

「ただ、あのラドリックとかいう奴は反対すると思うが……」

「確かにな……。まあいいさ、その時は気絶させるなり何なりするさ……」

「それもそうか……。とにかく、明日の夜が楽しみだな……」

「ああ……」


 この時、2人の男達の会話には俺は気づいていなかった。


 翌朝になり、デムイの町に向けて出発した。

 日差しが強かったが、風が吹いていたので馬車を走らせやすかった。

 俺は荷台に座っている3人の女の様子を見ていた。相変わらず、3人とも黙ったままだった。

 俺は少し不安になっていた。もしかしたら、このまま死んでしまうのではないかと思ったからだ。

 デムイの町まであと1日のところまで来ていた。

 俺は馬車を止めて休憩を取ることにした。

 3人の女達は檻の中で座り込んでいる。

 俺は馬車を降りて、木陰で休んでいた。

 しばらくすると、ハーキースとゴードンも馬から降りてきた。


「おい、ちょっとこっちに来てくれ……!」


 ハーキースが小声で呼んでくる。


「どうした?」


 俺はハーキースの元に行く。


「いいから、ちょっと耳を貸してくれ……」


 俺は言われるままにハーキースに近づき、ハーキースは俺の耳に囁くように話し始めた。


「お前はあの女達をどうするつもりなんだ?」

「どうするも何も、修道院に送るだけだが……」

「本当にそれだけなのか?」

「どういう意味だ……?」

「お前、あの女達を気に入ったんだろう?」

「何言ってんだ! 俺はそんなこと考えてないぞ……」


 俺は動揺してしまった。


「ふっ……」


 ハーキースは鼻で笑うと、今度はゴードンの方を向いて言った。


「なぁ、ゴードン。お前からも言ってやれよ!」

「おう! お前もあの女達を気に入ってるんだろう?」

「だから違うと言ってるだろ!!」


 俺は大きな声を出してしまう。


「おっと! 静かにしろよ……。女達に聞こえてしまうだろ」

「すまない……」


 俺は冷静になって謝る。


「なぁ、俺達はあの女達を気に入っている……。特に双子の姉妹は最高だぜ……」


 ゴードンはニヤついた顔で嬉しそうに喋っている。


「俺だって、あいつらを見ていて我慢するのが大変なくらいだよ」


 ハーキースも同意している。


「俺はあの双子の妹を抱いてみたいぜ……」


 ゴードンが下品なことを言っている。


「俺も双子の姉を味わいたいぜ……。どうせ、修道院に送っても死刑になるんだろ?」

「そうかもしれないが……」

「だったら、あの女達を犯してしまっても問題ないだろう? 女達が死刑になる前に俺達がいい思いをするだけだ」

「……」

「どうだ、ラドリック?」

「……俺は絶対、そんなことはしない!」


 俺はキッパリと答える。


「そうか、それなら仕方がないな……。残念だなぁ」


 ゴードンが残念そうにしている。


「そうだな……。まあ、お前がしないというなら、俺達も止めておくか……」


 ハーキースも残念そうな顔をしている。


「分かってくれたか……」


 俺はそう言うと2人から離れて行った。

 ラドリックが離れた後、ハーキースとゴードンは相談をしていた。


「なあ、俺達は夜にラドリックを昏倒させてあの双子を襲うことにする」

「それで、どうやって襲うんだ?」

「それはな……」


 ハーキースはゴードンに計画を話し始めた。


 俺は馬車に戻って出発の準備をする。

 その時、檻の中の女達と目が合った。


「どうかしたのか?」


 俺が訊ねると、ランシーヌが答えた。


「今日の夜は満月になりそうね……」


 俺は空を見上げた。確かに、雲一つ無い快晴だった。


「そうかもな……、曇りの日じゃなくて良かったな」

「えぇ、今夜はきっと良いことが起こるわよ……」


 女は不気味な笑みを浮かべている。俺は嫌な予感がしてならなかった。

 修道院に着いたら、その後に拷問と死刑が待っている筈なのに女達の顔には不安や絶望の表情を微塵にも感じさせていなかった。

 むしろ、これから起きる出来事を心待ちにしていたようであった。


 道中、何事もなく暗くなり野営の場所に到着した。

 焚火の前でハーキースとゴードンは酒を飲んでいた。


「おい、ラドリック! お前も飲めよ!」


 ゴードンが俺に酒を勧める。


「いや、俺はいい……」

「なんだ? 付き合いが悪いな……」

「それより、見張りはどうするんだ?」

「見張りなんか必要ないだろ!」


 ゴードンはそう言いながら、大声で笑う。


「確かにな……。こんなに静かな森の夜は初めてだな……」


 俺は周りを見ながら言った。空を見るとランシーヌが言ったように満月だった。


「そうだな……」


 ハーキースも辺りを見渡している。


「そういえば、デムイの町にはもうすぐ着くのか?」


 俺はハーキースとゴードンに訊く。


「ああ、明日の昼頃には到着するだろうぜ!」

「そうか……」


 俺は呟くように返事をした。


「ところで、女達の方は大丈夫なのか?」

「ああ、眠っているようだな……。今は眠らせておいた方がいい」

「そうだな……」


 俺は頷いた。


「よし、じゃあそろそろ始めるとするかな……」


 ハーキースはそう言うと立ち上がった。


「何を始めるつもりだ……?」


 俺は恐る恐る訊いてみた。


「決まってるだろ……。あの女達を犯すんだよ!」

「やっぱりな……」

「お前も混ざるか?」

「断る!」

「そうかい……。でも、お前が反対しても結局はやるつもりだったけどな……」


 ハーキースは笑いながら俺に近づいてきた。周りを見るとゴードンは俺の視界から消えてしまっていた。


「おい、それ以上近づかないでくれ……」


 俺は後退りする。


「そんなに怯えることはないだろう? お前も本当はやりたいんだろ?」

「違う! 俺は絶対にそんなことはしない!」


 俺は怒鳴るように否定する。


「そうか……。だが、自分から進んでやった方が罪悪感は無いと思うぞ!」


 ハーキースはそう言って、腰に差した短剣を抜いて俺に向かって突き付けてきた。


「俺を殺す気か!?」


 俺はハーキースの行動を見て驚く。


「安心しろ! 殺しはしないさ……。ただ、少しの間だけ気絶してもらうだけだ」

「何を言ってるんだ……?」


 その時、背後からゴードンが俺の後頭部に太い木の枝で殴ってきた。
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